第21話 集団と狙撃手と騎士団と

 伏兵というか狙撃手がいたようだ。

 そしてそれは敵ではないらしい。

 少なくとも今現在は。


 僕は次の戦場を探すべく一歩踏み出し。

 そしてそのまま飛び退いた。

 ペーパーナイフのすぐ前を砲弾が抜けて行く。

 更に別の銃弾が背後の褐色機体を打ち抜いた。


 状況は理解できている。

 僕の一歩を隙とみた褐色機体が砲弾を発射。

 それを見た不明機体が狙撃を実行。

 今の結果に至った訳だ。


 全く油断も隙も無い。

 助けられておいてこれだ。

 まあ筋の悪い奴だったのだろう。

 そして。


「返答はいらない。今の援護に感謝する」

 チラリと見えた青い機体に告げて。

 ペーパーナイフは次の獲物を探す。


 いこいの広場から少し北西に離れた大学サークル棟A・Bの前。

 そこで集団戦が繰り広げられていた。

 体育館と人文教育棟本館の間の道路に陣取って射撃している6機。

 空中を機動しながら応戦し、隙あらば後方に回り込もうとしている白い機体5機。

 透里の虫眼鏡はサークル棟Bの屋上付近。

 回り込もうとしている白い機体を機関砲で牽制している。


 数的に優勢なのは明らかに集団の方だ。

 分隊が白い騎士の側方にでも回り込めば戦況は変わるだろう。

 遠距離攻撃可能な機体と近接攻撃担当のガード機体を組にしてとか。


 でも集団にその気は無いらしい。

 作戦的に回り込む舞台はどうしてもリスクが高くなる。

 単なる烏合の衆にそんな火中の栗を拾うような奴はいない。


 さて。

 白い機体の方も既にこのペーパーナイフの存在には気づいているようだ。

 しかし前方の砲撃と虫眼鏡の牽制で思うように動けない。

 つまり、チャンスだ。


 集団からの射線に入らないよう共学研究施設B棟の影走り込みつつ。

 衝撃波を繰り出す。


 直撃は避けられた。

 でもそれで充分だった。

 乱れた隊列の1機を猛禽の爪が襲う。

 そしてペーパーナイフの第2撃。

 翼を半分奪われた1機が斜めに道路へと落ち、砲撃の餌食になる。


 集団からはこっちを気にせず砲撃が続く。

 虫眼鏡とペーパーナイフは直ちに離脱。

 集団の砲撃を速度で躱してサークル棟Bの影へ。


「今の機会で前進すれば騎士団を全滅できただろうに」

 透里の台詞は「使えない奴らだ」と続きそうなニュアンスが含まれる。


「援護ご苦労。もう一度側方からの攻撃を頼む」

 自分の立場をわかっていない奴の声が入ってきた。


「当方の目的にはそちらの援護は含まれていない。騎士団にアカシック・ウェポンが渡るのを阻止する事のみ」


「さっきは褐色の機体に背後から砲撃されたしな。まあ元々信頼はしていないが」


「それは何かの間違いだ。我々は……」


「津々井君、津々井君でしょ。助けに来てくれたのね」


 甘ったるい嫌いな声が横入りしてくる。

 この声は西山だ。

 もう聞きたくないからこの機体からの音声受信を遮断する。

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