第16話 僕の認める価値

「アカシック・ウェポンの別空間ね」


「そうです。それで用件は?」


 早く用件を言ってくれ。

 実のところ僕はそう思っている。


 西山はちょっと考える様な感じで小首を傾げて。

 そして軽く頷いてから僕の方を見る。


「実は助けて欲しいの。私もこれを持っているんだけど、いつ騎士団や他の所有者に襲われるか不安で」


 彼女はボトルと刷毛を組み合わせたミニチュアを見せた。


「これもアカシック・ウェポンですか」


「ええ。糊のアカシック・ウェポン」


 なるほど。

 状況はわかった。

 ただ。


「別に戦うのが嫌なら、そのアカシック・ウェポンを放棄すればいいだけでしょう。既にアカシック・ウェポンを認識しているのならそれが出来る事を知っている筈。違いますか」


 僕はこの事を透里から聞いた。

 でも先程ポケットのナイフに触れた時。

 使用方法に加えてそれらの知識も同時に僕の知識として書き加えられた。

 トリガーは『所有するアカシック・ウェポンであることを認識して触れる』事。


 だから西山も当然知っている筈だ。

 誰かに助けを求めるほど怖いなら、アカシック・ウェポンを放棄すればいい。

 それだけだ。


「嫌よ、だって勿体ないじゃ無い」


 甘えた返事が返ってきた。


「なら自分で立ち向かうまでですね。話は終わりです」


「何で!」


 わかっていないのか甘えなのか。

『放棄するか、戦うか。自分で選択しなさい』

 これが僕の言いたい事全てだ。

 でもこいつは馬鹿だ。

 なのでもう少しかみ砕いて言ってやる。


「この戦いに負けても怪我する事も死ぬ事も無い。単にアカシック・ウェポンに関わる記憶を失うだけでしょう。

 騎士団等にアカシック・ウェポンが渡る事が嫌なら権利を破棄すればいい。そうでなければ戦いを覚悟すればいい。どうせ身体に影響はないのだから。

 それ以上はただの甘えです。違いますか」


「ならあなたが私を守ってくれればいいじゃ無い」


 おいおい。


「その必要性がありますか」


 出来るだけ冷たく言ってやる。

 それが僕の優しさなのだが。


「だって有明さんとは共闘しているんでしょ」


 それとこれとは関係ない。

 僕は透里には好意を持っているがお前には無い。

 まあその理由は口にしないけれど。


「過去の2戦なら、どちらも有明さんの戦いです。僕は一切手出しも手助けもしていません。アカシック・ウェポンを起動するのすら、今が初めてです」


「有明さんがそんなに強いなら、私を助けてくれてもいいじゃない」


 駄目だ。

 こいつは自分中心にしか考えていない。

 日本語が使えても日本語が通じない。

 僕もいい加減頭にきた。

 なので。


「言いたくないのですがね。僕が西山を助けない理由を聞いても後悔しませんか」


「何なのよ」


 駄目だこいつ。

 そう思ったから、つい本音を言ってしまった。


「僕は西山に助けるべき価値を認めていない。それが全ての答です」

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