第11話 僕と透里と魔女の部屋

「負けたアカシック・ウェポンはどうなるんだ」

 大学部からの帰り道、僕は透里に尋ねてみた。


「勝った相手のものになる。

 なお、アカシック・ウェポンは所有者の意志で消滅させる事が出来る。

 今回の『ペン』は既に消滅させた。使うつもりはないからな。

 もし文明も面倒だと思えばあのナイフを手に取って消滅を願うがいい。記憶とともに全ては消える」


「あと負けた人間は?」


「アカシック・ウェポンに関する記憶を一切失う。身体的に怪我をするとかいうのは無いから安心しろ」

 なるほど。


 さて。

「そろそろ色々説明が欲しい処なんだけれどな。何故この学園でそんな超常事態が起こっているかとか。あの白い機体は何なのかとか」


「そうだな。そろそろ説明すべき頃合いだろう」

 透里は頷く。


「ついでだから今回の管理人に説明させよう」

 管理人?


「何だそれは」


「この学園内はこにわの戦い全体を管理している連中だ。運命の魔女ノルンなんて呼んでいる連中もいるようだが。実際長命種の魔法使いだしな」


「そんな存在がいるのか」


 あのファンタジーな現実もどきは修正した筈だった。

 戦いの後に『ペン』が書き加えた部分を全て削除した。

 そう透里は言っていた筈だが。


「ああ。魔女もエルフもライカンスロープもこの世界に実在する。あんなファンタジー然とした感じではないがな。

 普通の人類に比べれば微々たる数。だから普通は正体を隠している。その方が都合がいい事が多いんでな。

 それは連中が千年単位で試行錯誤して歩んできた歴史なり工夫なり知恵なり経験。それをさっきの馬鹿は自分の思い入れだけで踏みにじったんだ。しかも他から借りてきただけの薄っぺらいイメージで」


 やはりさっきの戦い。

 透里はかなり憤っていたようだ。

 あの無表情は彼女の拒絶のサイン。

 嗤うどころか認識にすら値しないという表情だ。


 さて、透里は何故か高等部の特殊教室棟の通用門へと入っていく。


「何処へ行くんだ」


「管理人の1人はこの中に常駐している。学校の営業時間はな」

 誰か先生の1人だろうか。


 透里は入って2部屋目。

 『理化学実験準備室』と書かれた部屋の前で立ち止まって。

 いつものように指を鳴らした。

 一見何も変わっていない。

 でもいつもと同じ世界が変わった感覚はした。


「表向きはここで普通の同好会活動をしているからな。空間を切り替える」


 透里はそう説明して。

 トントントン。

 扉をノックする。


「どーぞ」

 やや低い女性の声がした。



 透里は扉を開ける。

 中にいたのは長身で細身の女子生徒だった。

 顔立ちは整っていて、美人と言ってもいい。

 ただ印象的なのは目。

 右目の瞳が濃茶色で左目の瞳が緑色。

 いわゆるオッドアイだ。


「魔女の部屋へようこそ。取り敢えず歓迎しよう」


 背後で半分骨半分筋肉の人体模型が笑みを浮かべ。

 テーブル上ではガスバーナで加熱中の三角フラスコ内の液体が沸騰中。

 魔女の部屋と呼ぶにふさわしい雰囲気だ。

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