第10話 羊皮紙とペンと軽石
そして。
白い機体の全てが倒れるまで。
それほど時間はかからなかった。
白い機体の全てが人間の姿に戻った後。
漆黒の機体は僕らの方を向く。
「まだいたの。私の強さはもうわかったでしょう。それに私の創造する世界は楽しいわよ。考えを改めたらどう」
「戦闘の前に少し質問させていただこう」
透里はいつもの嗤いが無い無表情で告げる。
この無表情の意味を僕は知っていた。
「昨日改変する前の世界にも、実は魔女なりライカンスロープなりが実在した。もっと目立たない形でな。昼間からのんきに変身してランニングしたりするようなファンタジーな連中では無い。むしろ迫害に遭ってライカンスロープ等である事を隠してきたような連中だった。
その辺の事情は改変前に調べなかったのか」
「さあ。でもこうやって存在が表に出て彼らも幸せでしょう」
「耳長族、エルフも現代ではあえて耳を短くみせかけて社会に溶け込んでいた。その事実は」
「隠さなくて済んでみんなハッピーじゃない」
「なるほど、良くわかったよ」
透里は無表情のまま頷いた。
「君と僕は相容れないという事が」
灰色の巨人が出現する。
この前見た黒い猛禽とは色も形も何もかも違う。
大型だがやや鈍そうな灰色の機体。
装甲は石のような材質に見える。
両肩にはキャノン砲のような砲塔。
その巨人が漆黒の機体に向いた。
「あえて搭乗するまでもあるまい。さあ、勝負だ」
「負けた時の言い訳かしら」
「既に君の負けが確定したからだ」
その言葉と同時に灰色の機体がすっと腰をかがめる。
砲口から高速の赤熱した砲弾が飛び出した。
「アカシック・ウェポン『軽石』。メイン武装は砲撃『火山弾』。今回の手の内はこんなところだ。さあ始めよう」
「何よそんな弱そうなアカシック・ウェポン」
漆黒の機体が空中へ。
そして長刀を構え一気に接近しようとする。
灰色の機体が砲撃。
漆黒の機体がそれを軽々避け……
避けられずに羽に直撃した。
漆黒の機体は後方へと飛ばされる。
それでも何とか地に落ちずに空中で踏みとどまって。
「何故、何故避けられないの」
「搭乗者の腕の問題だ」
淡々、という感じで透里が言う。
「その機体の本来の運動能力なら避けられる。搭乗者の腕が悪い」
「そんな、『ペン』の能力が効かないなんて」
漆黒の機体が、ふらふらという感じで体勢を何とか立て直す。
「簡単な話だ。この世界のアカシック・ウェポンは羊皮紙形態のアカシック・レコードにその能力を及ぼす。ペンがあれば内容を書き加えられる。なら軽石はどう使う」
「軽石は軽石じゃない」
フン、と透里の鼻息が聞こえた。
「勉強不足だ。羊皮紙に書いた文字を消す方法はな、その部分を削り取る事だ。
ナイフとか軽石とかでな。
つまり僕は、『ペン』で書き加えた部分を『軽石』で消す事が出来る。
さあ、終わりだ」
灰色の機体が連続で砲撃。
漆黒の機体は空中で何度も跳ね飛ばされ、そして地に落ちた。
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