第1章 序盤戦

第7話 粒あんパンと甘食

 色々とまあそんな訳で。

 僕は本日も売店で粒あんパンと甘食を仕入れ。

 隣のクラスを訪問する羽目になるのだった。


「明日は久しぶりにクリームパンでもいいかな。でもあんパンも甘食も捨てがたい」

 明日もたかる気かい。

 きっとそうなるだろうとは僕も思うけれど。


 例によって屋上で透里と喫食中。

 取り敢えず今の時点では学園は平和だ。

 一見した限りでは。


「さて、今日は放課後、付き合って貰う事になる」

 そう言って透里は指をパチンと鳴らす。


 その瞬間、世界が変わった。

 同じ屋上だが他にいた生徒が一切見えなくなる。

「念の為個別空間を展開した」


「何なんだ一体」


「ちょっとした質問と確認のためだ。文明、中学1年の時に渡したナイフをまだ筆箱に入れているか」


「ああ、まだ入っている」


 ナイフと言っても鋭くて切れ味が良いものではない。

 ペーパーナイフのように装飾的なものだ。


「念の為、今日は内ポケットに入れてキーリングで何処かに繋いでおけ。あれが必要になるかもしれない」


「何故あれを」


 透里から1年の夏に貰った小さく装飾的なナイフ。

『御守り代わりだ。筆箱にでも入れておけ』

 そう言われて、以来何となく筆箱に入りっぱなしのものだ。

 全長は10センチ程度。

 護身用には使えないだろう。


「あれもアカシック・ウェポンだ。それもかなり強力な」

 透里はさらっととんでもない事を言う。


「何だと」


「アカシック・ウェポンそのものはこの学園中に何種も転がっている。

 私も『虫眼鏡』以外にもう1つ『軽石』も持っているしな。

 同一種も幾つも存在する。たとえば『虫眼鏡』は学内に5機存在する。


 そして全てのアカシック・ウェポンで今日までに起動したものはまだ2つ。僕の『虫眼鏡』ともう1つ『ペン』だ。

 この『ペン』を狙って昨日の連中と同じ組織が動くらしい」


「何故?」


 この疑問符の前には色々な疑問が詰まっている。

 何故この学園にそんな超常的なものが転がっているのか。

 何故そのいくつかを透里が持っているのか。

 何故その1つを僕に渡したのか。

 そして何故それらについて透里が知っているかだ。


「物事には大抵それなりの原因なり理由がある。

 全くの偶然なんてそれほど無い。

 まあそれはさておいて、僕が何故それを知っているかの答は簡単。

 アカシック・ウェポン『虫眼鏡』はそういう道具だからだ。知ろうと思った事を知って読み解くための。


 同様にアカシック・ウェポン『ペン』は書き加える事によって世界を改変する能力を持つ。昨日朝の世界改変は『ペン』の起動によって発生した訳だ。


 アカシック・ウェポンによる世界改変はアカシック・ウェポン所有者の記憶の改変を行わない。だからアカシック・ウェポン所有者は昨日の世界改変に何らかの形で気づいた訳だ。そして、それに準ずる連中もな。

 そんな訳で本日、アカシック・ウェポン『ペン』を巡る戦いが発生する訳だ」


「何か冗談のような話だな」


 僕の率直な感想だ。

 正直なところ出来の悪い小説を読まされたような感じだ。

 現実感がなさ過ぎる。

 エルフや狼男がいる日常の方がよっぽど現実感無いのかもしれないけれど。


「まあそう言うな。既に文明は巻き込まれたんだ。

 この現実感の無い箱庭の戦いにな」

 透里はまた妙な単語を使った。


「箱庭とはどういう意味だ」


「詳細は後程、という処だな」


 パチン。

 透里の鳴らした指音。

 世界に登場人物と音が戻ってくる。


「授業開始5分前だ。そろそろ戻るぞ」

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