第6話 黒い猛禽と白い騎士
漆黒で大型の翼を持つ機械。
機械仕掛けの梟という感じだ。
体高は5メートル程もあるだろうか。
大きさ的に2階建ての家くらいの感覚だ。
「今回はオートで充分だろう。さあ行け、『虫眼鏡』」
機械仕掛けの猛禽が羽を広げ、音も無く浮上する。
「やむを得ません。交戦します。出でよ我らが恩寵、
男達が胸元から十字架を出して上に掲げる。
瞬間、前方が白く発光した。
そして男達のいた場所に白色の人型機械が2機出現する。
体高そのものは『虫眼鏡』と呼ばれたものよりむしろ大きい。
片手剣と盾を構えた、いかにも騎士然とした外見だ。
「搭乗型の中級天使か。まあ序盤としてはこんなものだろう」
透里は表情を変えずにそう言って、そして僕の方を見る。
「状況としては見たとおりだ。わかるか」
「全く」
わからない、という方の意味だ。
「だろうな」
透里は頷いて口を開く。
「『虫眼鏡』も起動したばかり。性能試験にそこそこ時間がかかる。だからその間に説明しておこう。
なお僕も文明も現在は『虫眼鏡』の防護シールドに護られている。これを突破するには『虫眼鏡』を倒さなければならない。中級天使如きに倒せるような代物ではないがな」
「その『虫眼鏡』とか中級天使とかアカシック・ウェポンとかって何なんだよ」
「アカシック・レコードというのは聞いた事があるか」
僕はちょっと考える。
「あの未来過去の全てが記録されているとかいうオカルトか」
「正解だ」
透里は頷く。
「オカルトかどうかは別としてな。何故ならこの世界にはアカシック・レコードが存在する。それも出来事を読むだけではない。書き換えが出来る書物の形でだ。
そのアカシック・レコードに干渉するための道具。それが本来のアカシック・ウェポンだ」
白い機体と黒い猛禽の戦場で、透里は表情を変えずにそう説明する。
いろいろ状況と言葉が妙すぎて僕には飲み込めない。
「まるで出来の悪いファンタジーだな」
そう言うのが精一杯だ。
だが、その言葉に透里は嗤いを浮かべる。
「今朝、アカシック・ウェポンの1機が稼働して世界が書き換わった」
「どういう事だ」
「文明の違和感の原因だ」
そう言われて始めて気づく。
「ならファンタジーな種族が出てきたのも、ひょっとして」
「というか、そのものの事案だ。誰かが世界を書き換えた。アカシック・ウェポンを使ってな。
結果、文明が違和感を感じるファンタジーな世界になった。そうやって歴史ごと世界を書き換える。それが本来のアカシック・ウェポンの使い方だ」
「では目の前の戦闘は何なんだ」
白い機体と猛禽の戦いは続いている。
白い機体は空中にいる猛禽に今ひとつ効果的な攻撃が出来ないでいる。
猛禽の方も空中から騎士に接近しては遠ざかるという動きを繰り返すだけだ。
「アカシック・ウェポンは使用者を護る機能がついている。戦闘機能はそのおまけ。つまりは副次的なものさ。ただ世界を歴史ごと書き換えられるならその使用者を狙いたい気持ちになる連中もいるだろう。あんな感じにな」
透里の視線の先には白い機体。
「あの白いのはアカシック・ウェポンではない。戦闘機能と現状欺瞞機能だけを持った偽物だ。次の時代をも制する為に本物のアカシック・ウェポンを狙う組織のな」
「組織?」
「詳細は後程」
そう言って透里は戦闘の方へ視線をやる。
「さて。そろそろ戦いを終わりにするか。敵さんの動きも鈍ってきたし。起動直後の準備運動としてはこの辺でいいだろう」
透里がそう言うとともに。
黒い猛禽の動きが変化した。
今までは空中高い処からヒット&アウェイ的な動きをしていた。
それが今まで以上に距離を取った後。
一気に急降下して速度を稼いだ後、一直線に白い機体目がけて接近する。
ダダダダダダダダダダダ……
連射音が響く。
白い機体が構えた盾が弾着で震えた。
「終わりだ」
透里のその台詞とともに。
白い機体の1機は脚の爪で機体を抉られ。
もう1体は機関砲の弾着で左肩から斜めに穴を穿たれ。
それぞれあっけなく吹っ飛んで。
グヴァーン、ガシャガシャ。
強烈な音を立てて倒れて。
静止した。
「やはり中級天使では歯ごたえは無いな。所詮偽物の量産品に過ぎないという事か」
その言葉とともに。
世界が再び変化する。
気がつけばもとの男子寮の廊下だ。
白い機体ではなく男性2人が倒れている。
「さて、僕はこれで失礼しよう」
透里はそう言うと歩き出す。
「待ってくれ」
この始末はどうするんだ。
男子寮なのに透里がいて大丈夫なのか。
そして組織とは何だ。
だいたい何故そんな超常的な武器がこんな場所にあるんだ。
疑問は山ほど残っている。
「僕のアカシック・ウェポンにも現実改変能力がある。だから気にしなくていい。
そいつらも気絶しているだけで無事だ。
面倒に関わりたくなかったら10秒以内に自室に入り知らぬ存ぜぬを通しておけ。僕は現実改変能力外の事象まで責任を取るつもりは無い」
透里は振り向かずに呟くようにそんな言葉を残した。
そんな訳で。
僕は慌てて自室に入って鍵を閉める。
そして取り敢えずベッドに腰掛ける。
疑問は山ほどある。
でも透里に連絡しても無駄だ。
奴は自分が喋りたい事、喋る必要がある事しか喋らない。
メールでもSNSでも。
廊下の外が騒がしくなり寮監が僕の部屋のインタホンを鳴らすまで。
僕はそのまま深まる一方の謎を思い悩んでいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます