第5話 侵入者と透里と『虫眼鏡』

「あなたが持つ是世アカシック武装ウェポンを渡して下さい。あれはあなたのような一般人が持つものではありません」


 えっ。

 ちょっと待った。


「そのアカシック・ウェポンって何だ。憶えは無いぞ」


「この学校に入学した頃、誰かに渡された筈です。あれは我々が救世の使命のもと使うべき道具なのです」


 そう言われても。

「憶えがないけれどな」


「そんな筈はありません」

 男は無表情のままそう断言する。


 ちなみに喋っているのは前にいる方の男だけだ。

 後ろの男はそっくりな無表情のまま黙っている。


「昼にあなたはアカシック・ウェポンの話をしていたですね。違いますか」


 そう言われても。

 あれは透里がそう言ったたけだ。

 しかも人が少ない屋上の端部分で。

 こいつらそれを聞いていたのだろうか。

 でも見た記憶は無いのだが。


 そう思った時だ、


「そいつはまだ何も知らないぞ」

 男達の更に背後から声がした。

 僕が知っている声だ。


「箱庭における第2事象は魚座の旧勢力による是世武装狩りか。マタイ福音書のヘロデ大王による幼児虐殺のようだな。しかも虐殺側にいるのがそちらとは、これまた世間は皮肉で満ちあふれているようだ」


 この皮相的な口調は間違いない。

 透里だ。


「なお現在、この付近はこいつらの偽是世武装の勢力下にある。大声出そうが何しようが一切外界は感知しない。そうだな、騎士団の末端諸君」


「貴様は誰だ」


 2人とも既に視線は僕の方には無い。

 廊下の壁によりかかり、ポケットに手を入れた細身の生徒を睨みつけている。

 男子寮廊下に堂々とスカート姿で出てきた透里だ。


「昼にそいつにアカシック・ウェポンの話をした相手だ。ついでに言うとアカシック・ウェポン『虫眼鏡』の所有者だったりする」

 透里はそう言って右手を軽く上に上げる。


 パチンという指を鳴らした音。

 付近が一変した。


 床というか、アスファルト塗装の駐車場が延々と続いているような場所だ。

 広すぎて地平線が見える。

 見える範囲、ずっとアスファルト塗装。

 そして空は偽物のように真っ青の青空だ。


「さっきの場所は戦うには色々問題が多そうだからな。そっちの偽武装でもそこそこ戦える程度の空間を用意させて貰った。さあ、古き時代の騎士の手先よ、偽物の武装を出すがいい」


「偽の武装だと!」


 2人の無表情の仮面は剥がれている。

 見えるのは怒りと、そして動揺。

 透里の方は全くいつも通り。

 皮相的な嗤いを浮かべて立っている。


「本当は文明に色々説明してやりたいところだけれどな。まずは戦闘を見て貰うのが先になるようだ。そんな訳で、まずは僕の武装を紹介させていただく事にする。

 調査と探求が主任務。戦闘能力としてはアカシック・ウェポン中最弱の『虫眼鏡』、此処にて披露させていただく事としよう」


 透里の前方に闇が発生する。

 全てを飲み込むような闇が次第に形を纏っていく。

 そして。

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