第2話 僕と透里

 さて。

 僕の友人に有明透里ありあけとおりという奴がいる。

 性別は女だが恋人とかそういう仲では無い。

 あくまで友人だ。


 色々な事を知っているし頭の回転もいい。

 何を聞いてもそれなりの答は返してくれる。

 皮肉屋かつ偽悪的な奴だけれど。


 口調や表面上の性格はともかくとして。

 奴は一応信頼出来る。

 何気に結構義理堅い奴なのだ。

 奴の興味と信条に逆らわない限りは。

 それを知っている者は少ないけれど。

 普段の行いが微妙なだけに。


 そんな訳で。

 昼食休みの時間で。

 ちょっと透里にアドバイスを貰う事にした。

 ちなみに奴は1年A組。

 隣のクラスである。


 この学校のクラスは成績順。

 Aが良い、Bが普通、Cがもう少し頑張りましょうのクラスだ。

 昨年までは2クラスで何とか僕も透里と同じクラスだった。

 でも高校入学組が入って3クラス編成になったところで。

 僕の成績だとAクラスにとどまれなかった訳だ。

 残念なことに。


 なお、透里に話しかけたり一緒に食事したりするのは簡単。

 奴は基本的に人嫌いっぽく見える。

 教室内で誰が何をしようが全く関係なく読書したり昼寝したり。

 自分のペースを乱す事は一切しない。


 なので普通の神経の一般人が奴に話しかける事は滅多にない。

 例外を除いて。

 その例外が僕だったりする訳だ。


 式が終わってすぐ購買部でパンを購入し、隣の教室へ。

 案の定奴は一番後窓側の自席で本を読んでいた。


「透里、ちょっと相談事があるけれどいいか」

「状況次第だな」

 本を読む姿勢を崩さずに奴はそう返事する。


「粒あんパンと甘食、どっちがいい」

 奴は本の最終ページからしおりを取りだし、ページに挟む。

「両方だな」


 ちなみに透里はこういう”優しい甘いもの系統”に非常に弱い。

 かつ人混みを嫌う。

 だからパン販売中の購買部には近寄れない。

 それさえ知っていれば釣る事は簡単だ。


 透里は本を置いて立ち上がった。

「晴れているし見晴らしがいい方がいいな。屋上でも行くか」

「了解」

 そんな訳で。

 僕も昼食用のパンとドリンク入りの袋を持ってついていく。


 ここの屋上は開放されている。

 ちゃんとベンチも置いてあったりする。

 奴は空いていた北西角のベンチに腰をかけ、こっちに手を伸ばした。

「まずは粒あんパンだ」


「はいはい」

 渡してやると一瞬嬉しそうな顔になる。

 この表情が他の人の前で出来ればな。

 ファンも出来ると思うのだけれども。


 端っこをちまっと食べてふうっと彼女は息をついた。

「はあ、ブドウ糖まで分解され栄養分として脳に染み渡る味がするよ」


 僕には良くわからない味である。

 ちなみに普通の美味しいあんぱんだ。

 特に怪しい薬品が入っている訳ではない。

 念の為。

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