箱庭の学園 ~変革と幻想と是界武装~

於田縫紀

序章 インストラクション

第1話 僕と違和感

 気がついたら日常の一部が違っていた。

 そんな経験が無いだろうか。


 例えば毎日通る道の角の学園事務局の建物。

 確かクリーム色だったと思っていたのに。

 今朝通ったら薄い緑だった。


 それとなく友達に聞いてみた。

 前から緑だったと言う話だった。

 念の為グーグルで確認した。

 2年前の時点で緑だった。


 そんな感じの些細な日常の食い違い。

 それは単に僕の思い違いだったのだろうか。


 この世界は僕の記憶とかなり違っている。

 いつからそうなったかはわからない。

 違いはきっと些細なところから始まっていて。

 そして今、僕ははっきり気づいている。


 間違いない。

 ここは僕にとっては異世界だ。

 どこまでが変わっているのか。

 もとの世界がどんな世界だったのか。

 実はもう僕にも詳細はわからないけれど。


 さて、僕の現状を説明するに当たって。

 まず僕自身について説明する必要があるだろう。

 津々井文明つついふみあき15歳。

 全寮制の秋津学園高等部、1年B組に進級したところだ。


 秋津学園は中高大学大学院まで備えた教育・研究機関。

 僕の記憶では、

『世界に通用する日本の学生と学問を醸成する』

ことを目的に財界有志によって設立された。

 いや、だった筈だ。


 しかし現在僕がいる秋津学園は違う。

『人種、亜人種の垣根を越え世界に通用する学生と学問を醸成する』

という目的の教育・研究機関になっている。

 何せつい今、高等部始業式の校長訓示でそう聞いたから間違いない。


 僕が中学受験を乗り越えてここに入った時。

 その時には確か『人種、亜人種の……』なんて下りはなかった筈だ。

 そもそも世間に亜人種の存在が認められてさえいなかった。

 亜人種はファンタジーの世界の話にのみ生息していたのだ。

 いつからこうなったのだろう。

 どうしても思い出せない。


 ついでに言うと、その前に発言していた中高等部生徒会の会長。

 あれは間違いなく耳長族、つまりエルフ系統だった。

 だからこの環境はもっと前からこうなっていたのだろう。

 でもそれが何時からか。

 どうしても今の僕には思い出せないのだ。


 校長のそんな訓示だが、周囲の教員も生徒も当然の事のように聞いている。

 違和感を感じているのは僕1人だけらしい。

 まあ集会最中だから実際はわからないけれど。


 それに実際聞いてみるのも難しい。

 もし変わったと思うのが僕だけだったならば。

 きっと回りから常識や頭の健康を疑われる。

 下手すれば亜人種差別とさえ思われかねない。


 文献はあてにならない。

 生徒手帳に記載されている『当学園設立の目的』すらそうなっているのだろう。

 違うのは僕の記憶だけ。

 確かめる方法は……


 そんな事を考えていたおかげでだるい式典も短かく感じた。

 これは喜んでいい事なのだろうか。

 残念ながら僕の気分は晴れない。

 この件が心にひっかかったままだから。

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