死にたがりの思い出

……翌日……


「ねぇ、一太くん♪」


朝、美穂が僕に話しかけてきた。


「おっと、俺はお邪魔かな?じゃな!」


夏樹はニヤッと笑うと親指を立てて背中を向けた。


「ちょ!夏樹!な、なんなんだよ!」


「あ、わ、私は来ない方が良かったですか?」


美穂はこれを見て自分のせいだと思ったらしい……、申し訳なさそうに見ている。


「いや、一太は美穂ちゃんに会いたがってたよ!はなしてあげて!」


「夏樹!僕そんなこと言って――――――」


「そうなんですね!ありがとうございます!では、一太くん♪今日も放課後、お願いしますね!」


「あ、あぁ……。」


それだけ言うと美穂は去っていった。


「…………」


「なにニヤニヤしてんだよ!」


「いやぁ〜昨日かなりの進展があったんじゃないかなぁって……。」


「う、うるせぇ!」


……放課後……


「じゃあ、行こっか!」


「うん……。」


美穂に引っ張られるように階段を上る。いつもの屋上の扉……。窓からはオレンジ色の光が差し込んでいる。もう一度階段を降りればまた……


「2つ目の思い出は何かな?」


美穂は何故こんなにも楽しそうなのだろう?



「じゃあ……入るね?」


美穂は真ん中の青い扉に手をかける。昨日と同じように体が吸い込まれてゆく感覚を感じた……。



「ん……ん……?」


目を覚ますとそこは外?だった……。見たことのある道路……。確かここは……!


プープー


クラクションのような音が背後から聞こえ、振り向く。


「美穂!?」


美穂の背後にトラックが迫っていた。美穂は……なぜか逃げない。


「美穂!美穂!逃げて!」


「…………」


「クソ!」


僕は気がつくと走り出していた。


(体が……動きにくい……!)


よく見てみると美穂は今の美穂ではなかった……。これは……幼き日の美穂……。


いや、美穂だけじゃない。一太も同じだった。


「届け!」


トラックが美穂にぶつかる直前、美穂を引き寄せて強く抱きしめる……。


ドンッ


鈍い音とともに気のおかしくなるような痛みが体に走り、宙を舞う。


「一太くん!一太くん!なんで……。」


美穂の声が響く中で、意識の糸が、切れた。




「一太くん!起きてよ!目を覚ましてよ!」


「ん?……な……ん……だ?」


「あ!一太くん!やっと目を覚ましてくれた!」


「え?美穂ちゃん……?」


「うん!私だよ!美穂だよ!」


目が覚めると目の前に美穂がいた。顔は涙でびしょ濡れになっていた。


「私……その……」


「ん?」


「一太さん、目を覚ましたのですね。」


美穂は何かを言いたそうだったが、医者にそれを阻まれてしまった。


トラックに跳ねられたにも関わらず、怪我は打撲ですんだ。その日のうちに退院でき、美穂に支えられながら帰った。


――――――――――――――――――――


あなたは私に「美穂ちゃんが死んじゃったら悲しいよ……。」って言ってくれた……。でも、私は……、


死にたかった――――――。


いじめられて、傷つけられて、身も心もボロボロになっていく……。そんな日々に私は耐えられなかった……。


「うん、私も一太くんが死んじゃったら悲しいよ……。」


そうは言ったけれど……、あなたのいなくなる悲しみといまの苦しみは……同じくらいかもしれなかった……。


ダメ……体が壊れそう……。


…………………………心が潰れそう……。


涙は既に枯れ果ててしまった……。


どうすればいいの?


もう……死ぬ勇気は出せないよ……。


あなたが出してくれた勇気の分……、


あなたが負った傷の分……、


私はまた、傷つきながら生きなくてはいけないの?


苦しい……辛い……苦しい……辛い…苦しい

……辛い……苦しい……辛い……苦しい……辛い……苦しい……辛い……苦しい……辛い

……苦しい……辛い……苦しい……辛い……

苦しい……辛い……苦しい……辛い……


心が黒くなっていく――――――。


「これからも一緒にいてね、美穂ちゃん。」


あなたの明るい言葉が……


私の心をさらに陰らせてゆく……。


やめて、私はもう―――――――。


――――――――――――――――――――


「これが……美穂の思い出……?」


全てを見終わっても信じられない。あの時の美穂がまさか死にたがっていたなんて……。


「…………」


美穂は俯いたまま何も言わない。


「美穂?大丈夫?」


「え、あ、うん!大丈夫!今はもう死にたいなんて……思ってないから!」


「……そっか、良かった。」


安堵した僕は廊下を見てみる。奥には最後の青い扉が見えた。その景色は徐々に揺らぎ、気がつくといつもの1階に座り込んでいた。


「……帰ってきた見たいだね。」


「うん……。」


それ以上は何も言えなかった。自分の知らない美穂を見てしまった……、見てはいけなかった気がしてしまう……。美穂の顔も見れずに、その日は無言で別れた……。

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