どうやら俺は死んだらしい
さて、ここは一体どこなんだ?
つい先ほど、光に包まれたと思ったら、全く違う景色が目に飛び込んできた。
木々が青々と生い茂り、花が咲き、まるで一瞬で雪が解け春が来たようじゃないか。仄かに香る花の香り。このまま眠ってしまいたくなるほど、ポカポカした陽気も心地良い。
だが、何が起こっているのか全く判然としない。
俺はさっきまで雪山で滑っていたはず。
・・・なるほど、どうやら俺は死んだらしい。
全く実感がないのだが、いわゆる死後の世界とやらに来てしまったようだ。
「人生50年、なんて言われるけど、その半分も生きれなかったわけか」
ぽつりと呟いた。
だが、不思議と気持ちは穏やかだ。てっきり、人間死ねば真っ暗な闇に包まれたり、眠る様に意識が消え無になるかと思いきや、そんなこともなく、死の不安や恐怖すら感じない。むしろ、今までに無い穏やかな感覚、安堵と平和。こんな気持ちで死ねるなら、そうそう悪い最後ではないのかもしれない。
1人で合点し、うむと小さく頷く。
「俺は、死んだんだ。・・・そう、死んだんだ」
頭を巡るのは、今までの人生だ。
ハッキリ言って、どう評価をしたものか。こんな危険なスポーツを好んでする人間だ。いつも頭の中では、いつかこの時が来るのではと覚悟はしていた。
だが、今となってはもうどうしようもない。まさに後の祭りだ。
この人生に悔いは無い。
だが、未練が無いと言えば嘘になる。
拳を握りしめ、歯を喰い縛り涙を堪える。
仕方ない、仕方ないんだ。
いつか、来る時が今来ただけ。
そう、ただそれだけ。
そう観念し、死を受け入れようとしている最中、突然「わぁっ!!」と大きな叫び声。
誰だ、人がせっかく観念して死を受け入れようとしてるってのに。
声の方へ目をやると、そこには若い女が一人、目を大きく見開きこちらを凝視していた。まるで珍獣でも見るかの様に。
「どっ・・・どうしたですか・・・?」
女は酷く狼狽している。そのためか、口調が妙に変だ。
どうしたと言われても、それは俺が聞きたいくらいだ。
俺は今自分が死んだと思っているが、するとこの少女も死んでいることになる。見たところ、お化けには見えない。脚もしっかり2本ある。
存外、人は死んでも姿形はしっかり残っているものなのだろうか。
それとも、ただ単に俺が頭を強く打ちでもして、
はたまた、実はやたら現実味のある夢を見ているだけなのか。
どうにも頭が混乱し、考えが纏まらない。
少女はそんな俺をまだじっと見ている。
「こっ...この村に人が迷い込むなんて、しばらくありませんでしたので。」
失礼しました、と少女は頭を下げた。
ゆっくりと顔を上げ、一呼吸つく少女。
「どうやら、あなたはまだ亡くなられたばかりで、ご自分の状況が理解できない様に見受けられます。心中お察しします。ですが、死は天与のものであれば、いつか必ず訪れます。何人もこの定めからは逃れられません。申し遅れました。私は、サクラと申します。現世と冥土の狭間に在る死人の村を治める者です。これより、あなたを無事冥土にお送りするため、お力添えをさせて頂きます。以後、お見知りおきを」
俺を見据えながら、静かに、だがハッキリとした口調で語りかけてきた。
信じ難い話だが、どうやら本当に死語の世界ってやつに来てしまったようだ。そして、わずかな希望も打ち砕かれた。
死。
これが死か。
なんとも思っていた死とは随分イメージが違って、なんだか可笑しくなってきた。
少女は、ともかく詳しい事は私の家で伺いますと言う。
どうやら、俺を屋敷へ招いてくれるそうだ。
まだ頭が整理できないが、ともかく、今は素直にお呼ばれするしかない。
俺は立ち上がり、少女に頭を垂れる。
「宜しくお願いします」
そう言うと、少女は神妙な面持ちで、また頭を下げた。
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