囚人服の少年 -20-
目が覚めてから大分時間が経つと思うが、生憎俺達は揃いも揃って時計を持っていなかった。部屋にも時計はなく時間を計る方法がない。試しに霞に部屋に連れてこられてからの時間経過を聞いたが、俺達三人の介抱で忙しくしていたので、皆目見当がつかないとの事。霞ってほんとに良い子だ。
そんな霞が部屋の淹れてくれたお茶を啜りながら俺達四人は作戦会議をし続けている。
「それにしてもよくお茶見つけたわね」
「分かり易い所に置いてあって助かったよ。流石にお茶請けはなかったけどね」
「早々都合よくはいかないか」
「あっ、茶柱」
完全にのお様相を呈しているが、実際打つ手がない以上、待つしかないというのが今の所結論だ。わざわざこうして生かされている以上は危害を加える気は今の所なさそうだし。
実際、あらゆる手を使って外へ出ようとしてみた。まずドア。押しても引いても駄目。ならばと蹴破ろうとしてもびくともせず足が痛くなるばかり。全く以て頑丈なドアだ。
ドアが駄目ならばと壁をぶち破ろうとしたが、これも上手くいかなかった。手頃な家具を思いっきりぶつけてみても傷一つつかない。それも壁だけではなく家具自体にもだ。そうしたわけで、俺達は万策尽き致し方なく休憩を満喫しているというわけだ。だが、この何も出来ない時間があったからこそ、俺達はクランケである霞とこうして打ち解けることができた。
そもそもこうして話す事が出来るのであれば捕獲する必要など無いわけだしな。この霞という女、実はまだストロビラからエフィラへと成長したばかりで日が浅いのだという。
それでも、人語を介し、ある程度の人間の社会の一般常識を有していた。どこでそれを学んだか聞いてみても、気がついたら身に付いていたとしか言わず、本人でも改めて考えると不思議な話だと訝しがる始末だ。
おそらくは、人間の想念が元で出来た存在であるから、想念とともに人間の知識も混ざり込み、人型を手に入れるエフィラに成長する事で知恵や知識が発言したのだろう。
霞との会話は有意義な情報こそ少なかったが、クランケへの理解を一新させるには十分な出来事だった。
「いつまでこうしてりゃいいのかね〜」
霞はどっぷりとソファに腰を沈め、すっかり休憩モードに入ってしまっている。太刀川も松浪も、すっかり休憩モードだ。まぁ、確かに探索や戦闘の疲労も溜まっているし、丁度いいが。
「それにしても、こう男女半々で向かい合ってると合コンみたいだな」
俺は特に意味もなく言ってみたのだが、即座に太刀川の目が鋭くこちらを睨む。怖い。
怖いので、視線を逸らし、霞を見てみる。こちらも動きがぴたっと止まり、あからさまに引いているご様子。
「やっちまったな。惣介」
「えっ?そんな真に受けないでよ、適当に言っただけなのに」
「時と場合を考えろ、クズ」
冷徹に呵責する太刀川の声に俺はすっかり冗談を飛ばす勇気を挫かれてしまった。善かれと思った行為が周囲の不評を買う事は往々にしてあるものだが、やらかしたこの場の空気が居たたまれない。
「ごめんなさい」
居たたまれず素直に謝る。
「ならば良し」
太刀川の竹を割った様な性格は助かるが、ほんとどうしたら気を許してもらえるだろうか。
「どうした、霞。顔が赤いぞ」
松浪の指摘に霞は酷く狼狽し、赤くねぇし!と必死に否定しているが、俺から見ても確かに赤くなっている。
「クランケとの合コンとか前代未聞だな」
茶を啜りながら松浪は暢気に言う。いよいよ霞の顔は赤くなり、机を叩き違げぇし!と、頑に否定している。
「なんであんた達みたいなムサい男達とそんな破廉恥な事しなけりゃいけないんだよ!」
「ひどいこと仰る。男は顔じゃないぞ。しっかり中身を見なさい」
太刀川からの暴言に慣れているとはいっても、他の女に言われると普通に堪える。なんだか哀しい。
「うっせ!第一このノッポの兄さんぼさぼさに伸びた髪で顔が見えねぇじゃねぇか!面ぐらい見せやがれ!」
霞は手で松浪のボサボサに伸び覆い隠している髪を払い、松浪の素顔をマジマジと見る。次第に顔がとろけていき、それに伴い、力なくソファにまた座り込み、俯いてしまった。
茶を啜りながら事の成り行きを見ていた太刀川が一言。
「カップル成立おめでとう」
「おい、茶化すな!のっぽの兄さんも否定しろよ!」
絞り出すように声を出すが、もはや蚊の鳴くような声しかでていない。
「宜しくな、霞」
「おいコラ松浪、乗ってやるな。霞の奴、半狂乱で頭を抱えてるじゃないか、彼女持ちのくせにナンパするんじゃありません!」
「・・・えっ?」
あっ、しまった。霞の顔がどんどん青ざめていく。
「余計な事言っちゃったな、惣介」
「俺のせいかよ!」
こいつ、後でマジ説教してやる!
優雅に茶を啜る太刀川、恋に堕ち恋に破れた女クランケ、その女を容赦なく振った松浪、その責任を理不尽に擦り付け憤慨する俺。
喧々諤々の応接間に、ガチャリとドアが開く音が響く。
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