第14話 侵入作戦なんて認めない

 揺れは治まり、トラックの荷台の扉が徐に開かれる。



「到着した。 降りろ」



 小さな少女もとい、この部隊の隊長であるおさげの少女クリムゾンは私を見ると早く出るようにと促す。


 俺は顔が知られているために作戦は別行動となっている。

 手を後ろに組み、まるでまだ手錠をしていますよ感をだしながら、ゆっくりと荷台から降りる。


 そこはあの街とは違った近未来だった。


 硬質な金属製のタイル、そしていかにも強固な壁が目前へと聳え立つ。


 それを仰ぎ見ながら思わず口が空いてしまう。



「何をしている。 こっちよ。 トロトロするな」


「あ、はい」



 可愛い顔してキツイ性格とかモテませんよお嬢さん。

 女性はつつましくお淑やかが一番なのに。



「ねぇ、今物凄く失礼な事考えなかった?」


「じぇんじぇん!!」



 只でさえこちとら女性と話すだけで緊張するのに、そういった感が良いのはいけないと思います。

 苦笑いを浮かべちらりと横目で見れば、同じようにガタイのいい男達はそれぞれ箱を持ちながら移動している。


 ここまでは計画通り。 後は中に入る手立てを知ることだ。


 見渡せば至る所に監視カメラらしきものが伺える。

 そのカメラはまるで巡回する浮遊機らしく、プロペラを回し、左右へと飛んでいく。


 近づいた一機の浮遊機が私の姿を捉えると硝子越しのレンズが広がる。

 おそらくは認識でもしてるのだろうか。 それか、ズームか。


 ていうか近い近い!!! そんなに顔にくっついたら逆に何も見えないだろうが!!



「ん? なんだ。 また故障か。 すまんな」



 クリムゾンは背伸びして浮遊機を掴むと、プロペラの上のボタンらしきものを押す。

 すると回っていたプロペラは回転を緩め、停止した。



「機械課に伝えてくれ、また不良品がでたとな。 まったくロクな仕事をせんなあそこは……」



 クリムゾンはため息を吐きながらガタイのいい男に浮遊機を無造作に放り投げる。


 なるほど…… あそこが停止ボタンなんだな……


 ちらりと見渡せばこのフロアだけでも三体の浮遊機が巡回している。


 クリムゾンは歩みを進め、金属探知機のようなゲートの前へとたどり着く。

 そこにはモニターらしきものがあり、カードキー差込口が設置してあった。


 クリムゾンは懐からカードキーを取り出し、差込口へとスライドさせる。


 するとモニターが光りだし、ノイズが走った直後この要塞のロゴが表示される。


《ダルンダルン要塞》


 どうにかならなかったのかね、この名前。

 果てしなくセンスが無いと言ってやりたい。


 ロゴが消えた後に黒い画面は色を取り戻したテレビのように映像が映し出される。


 そこにはモニターが多く置かれた部屋に血色の悪そうな男が上質な椅子に座り、インスタント食品を口にしながらゲラゲラと別のモニターを見て笑う姿。


 この世界にもインスタントラーメンってあるんだなと再確認したところで、顔を文字通り真っ赤にしたクリムゾンは画面に向かって罵声を浴びせる。



「室長!!! 勤務時間に何やってるんですか!!!」


「ぶふぉあ!? あっ、やべっ、高性能モニターがぁああああ!!!」



 盛大に噴出した室長と呼ばれた男は慌てふためき、とりあえず置いてあったタオルで隠すと苦笑いを浮かべこちらのモニターへと向き直る。



「ど、どうしたのかな、く、クリムゾン。 まだ戻ってくる時間じゃないだろ? はっ、まさか偽物!?」


「本物よっ!! それよりもなに勤務中に軽食とってんのよ! ここを誰か通ったらどうすんのよ!!」


「いや、まてクリムゾン。 お前の言いたいことは十分わかるぞ。 だがな、あれだ。 食品課の新たなインスタント料理の性能を試していたのだよ。 おかげでほぅら、タイピングの速度もわずかに上がっているだろう?」



 かちゃかちゃと目の前にあったキーボードらしきものを叩く苦笑いを浮かべた室長。


 こんなにも嘘が下手な人が居ただろうか……


 その無造作に押されたキーボードのせいで、室長の横のモニターが卑猥な動画へと変わる。



『社長さぁん。 お上手よぉ』 


『ぐふふ。 辛抱溜まらん』


『やぁん。 焦っちゃだぁめ』



 甘ったるい女性の声がモニター越しにこちらにも響き渡る。


 ああ、やっちまったなアイツ。



「ぶぁあああああ!!! ち、ちが、違うぞぉお!! 決していやらしい番組ではなくてだな、これはあれだ。 そう社長になる為の心理テストってやつでな……」



 クリムゾンの方を見ればもはや怒りを通り越し呆れている。



「いいです。 時間の無駄ですし。 ここを通してください」


「あ、はい」



 情けない。 なんとも情けないぞ室長!


 ゲートが開き、なんともいえない気持ちでそこを通って行くと倉庫のような場所へと連れていかれる。



「荷物はそっちに移してちょうだいね。 御苦労さま。 貴方は今日は子供の参観日なんでしょ、早く行ってあげなさい」


「はい。 ありがとうございます」



 頭を下げ、去っていく一人のガタイのいい男。

 なんだろうクリムゾン実はいい奴説浮上か?


 見渡せばここの部屋には浮遊機は存在しない。

 さらに荷物を運ぶガタイのいい男は一人減って三人となった。


 クリムゾンには少し申し訳ないが、やるなら今だ。


 運び込まれた色とりどりの箱はこれで全て。



「あの、クリムゾンさん。 お願いがあるのですが」


「聞く気はないわ。 これからたっぷり尋問してあげるから覚悟しておきなさい」



 くるりと前を向いたクリムゾン。


 今だッ!! 



「捕まりたくないんで抵抗しますねっ!!!」



 クリムゾンの背後から抱き着き、その口に睡眠薬入りの布を押し当てた。

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