第13話 IZZUのトラックなんて認めない

 ゴトゴトと荒い運転の中、荷台に乗る羽目になった俺は酷い乗り物酔いと戦う羽目になっていた。


 トラックのような荷台にまるで荷物のように放り込まれ、息苦しい空気の中しっちゃかめっちゃか揺らされたら誰でも酔うってものだ。


 青い顔で項垂れていると箱の隙間から聞きたくもない声が聞こえてくる。



「ほっほっほ。 だらしがないのう」



 うわっ!? 疫病神だ。 てゆうか、顔だけ箱から出すなよ。 まるで黒ひげ危機一髪みたいだぞアンタ。


 滝のような汗を流し震えながら不敵に笑う神父ジジイ。



「儂なんて今箱の中身がどうなってるか見たくないんじゃが」



 そのアマ〇ンの箱の中にはいったいどれほどのおっさんが詰め込まれているのか。

 この暑さで蒸れ、心なしか蒸気が漏れ出ているような気もする。


 絶対臭い奴や。


 意外にこっちで居たほうが正解だったのかもな。



「それにしても上手くいったようじゃな、これで侵入まではすんなり行くというもの」


「ああ、俺以外はな」



 俺は見ればわかる通り手錠を両手に嵌められている。

 さらに要塞へとたどり着けば尋問が待っているというサービス付きでだ。



「湊殿が居なければここまで上手くいかなかった。 さすがはフェデリア殿の相棒だ」



 ずぼっと、音を立ててアマ〇ンの右側から頭を出すダージェフ。

 ダージェフはどっから顔出してんだよ。 それ戻すの誰だと思ってるんだ? 俺だからな!!



「ほっほっほ、これからもよろしく頼むぞい相棒」


「誰が相棒だ!!」



 相棒のキーを上げるんじゃない!お前はどこぞの受付嬢か!! ドスジャグラスにでも食われてしまえ!!



「というか、爺さん魔法使えるんだろ? 俺の手錠なんとかしてくれよ」



 そもそもこの手錠がある限り俺は何もできない。

 まぁ外れてもできることなんて限られてるんだが。



「ではフェデリア様カッコイイと十回言うんじゃ。 話はそれからじゃ」



 コイツ…… 自分が有利な立場に居るからって調子に乗ってやがる。

 眉間に皺が寄る。 思わずこの両手で殴りに行きたい。 殴ってもいいよね。 


 憎たらしい笑みを浮かべ爺さんは口笛を吹く。


 だが、俺はコイツを殴れないのだ。

 前に思い切り不意打ちで殴ろうとした時があった。

 顔面を殴れば少しはすっきりするんじゃないかって出来心だったんだ。


 だが、できなかった。


 コイツは俺からの攻撃に対して天界のシステムを使い完全にブロックしてるのだ。


 だからこんなにも憎たらしく言えるのだ。


 唇を噛みしめる。 コイツの思い通りだと思うと無性に腹が立つ。



「わかったよ! 言えばいいんだろ!! フェデリア様カッコイイ、フェデリア様カッコイイ……」



 俺はこんな場所で何をしてるんだろうな。


 虚無感が襲う。


 十回言葉を口にしただけでまるで魂を吸い取られたかのような疲労感を感じる。



「……言ってやったぞ。 早くしろよ」


「そこまで言われては聞かないわけにはいかんのう。 ダージェフ殿」


「おうよ」


「は?」



 バリバリと箱を破り出てくるダージェフ。

 お前…… 何やってるん……


 徐に俺にダージェフは近づき、俺の手錠を掴むとバキリと折って壊した。



「おま……」



 最初からダージェフに頼めばよかったじゃん。



「叶えてやったぞお主の願い」


お前じゃない!!! お前は何もしてないからな!!! 得意げな顔すんな!! なに?爺さんダージェフを意のままに操るとかそんな魔法の…… わけないよな!! 


 というかこの箱壊しちゃって良かったのかよ……

 うわ……中にまだたくさんおっさんが詰まってらぁ……


「作戦は第二段階へと移行した。 ここを降りたら速やかに運転手を拘束。 それぞれの持ち場に向かってもらう」



 え!? 作戦ちゃんとしたのあるの!? 聞いてないんだけど。



「まずは管理室を抑える。 全ての制御装置の管理を行っている場所が要塞のどこかにあるはずだ」



 そういった情報はいったいどこから仕入れてくるんだろう……



「この情報は、罠担当のブラウスさんの情報だ」


「ああ、間違いねぇぜ。 俺が要塞でトイレの個室を借りた時偶然警備の奴らが話していたのを耳にしてよ」



 またもやアマ〇ンの箱の今度は右側からブラウスという髭の生えた男が顔を出す。



 お前もそこから顔出すんかい!! え? トイレ要塞で借りてたの!? 中に入れてんじゃん!! 何で入れてんの!?

 まずそこが気になるところなんだが!!



「奴ら俺が個室に入ってることも知らず、呑気に話していやがったぜ。 耳を澄ませて聞いていた内容はこうだ……


『管理室ってさ、密室じゃん。 急にお腹痛くなったらどうするよ?』


『トイレに行きゃあいいじゃないっすか室長』


『馬鹿いえ、重要な制御装置がある場所だぞ、離れられるわけねぇじゃねぇか。プルセアちゃんの電話ならいざしも、俺の腹痛でなんざ無理だね。 だからよ、お前管理室にトイレ作れ、ちゃんとしたやつな! 俺はウオッシュレットがねぇとダメな体だからなちゃんと一番いいの作れよ!』


『えぇ…… そんな無茶な話あるんすかぁ』


『お前、俺が漏らしたりなんかしてみろ、ここの評判ガタ落ちだぞ。 陰で糞漏らし室長とか言われるんだぞ。 嫌だろそんな部署で働くのは』


『めっちゃ嫌っす!!』


『だろ? なら一番いいのを頼むぞ』


『わかったっすよ~』


……という内容だったぞ」



 随分再現度が高いな……

 ようは管理室があって、そこには室長が一人だけで管理しているわけか……

 トイレの増設の話とかいるのか?



「あの後も話していたが、へへっ丁度そこで俺の腹の中のモンスターも唸りを上げてよ…… それどころじゃなくなっちまった」



 下した話を誇らしげに語るな。



「この情報は大きい。 まずは着き次第手当たり次第に管理室を探すぞ」



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