第15話 メタル〇ア作戦なんて認めない

「捕まりたくないんで抵抗しますね!!」



 クリムゾンの背後から顔を覆い、口元へ睡眠薬入りの布を押し当てる。

 まるで某アニメの黒の組織のような事をやっているなと思った瞬間だった。



「おらぁああああ!!!」


「ぶべらっ!?!?」



 まるでその行動を予知していたかのように俺の腕を掴むと、その小さな体躯に見合わない力で俺が宙に浮く。


 そのまま景色はぐるんと一回転し、地面へと思い切り叩きつけられた。


 肺に溜まった空気は無理矢理押し出され、苦痛から苦悶の声が漏れる。


 俺を投げ飛ばしただと!?



「上手く不意を突いたと思った? こう見えて格闘術には腕があるの」



 まさかの蘭姉ちゃんのほうだったか!!!


 普段運動などロクにしてこなかったせいもあり受け身など綺麗に取れなかったので、既に瀕死の状態だ。



「ぐっ!?」


「残念ね、いい子にしてれば痛い思いをしなくて済んだのに」



 俺の上に馬乗りになったクリムゾンは俺の腕を素早く後ろに組ませる。関節が極まりめちゃくちゃ痛い。


 クリムゾンは懐から小型のオートナートを取り出し、俺の頭へと突きつける。



「おっと、それ以上は止めてもらおうか、お仲間がどうなってもいいならな」



 その声に慌ててクリムゾンは振り返る。



「まさか!? してやられたわね…… 街に大人がいなかったのはこれのせいだったのね」



 痛む体を起こし、見ればダージェフ達はガタイのいい三人の男を拘束している。

 オートナートをそれぞれ突きつけ、形勢は逆転した。



「こっちも大人しくしてもらえれば乱暴な真似はしない。 武器を捨ててくれるか」


「仕方ないわね、仲間の命には代えられないもの」


「「「た、隊長!!」」」



 あれ、クリムゾンってホントはいい奴なのでは?


 クリムゾンは握っていた小型のオートナートを無造作に放り投げるとそのまま両手を上げる。


 アスレ=チックのメンバー達は慣れた手つきでクリムゾン達にロープを巻き付け柱に動かないように固定していく。



「計画通りじゃな!!」



 お前は何もしていない!! 仕切り出すな爺さん!!


 というか、俺だけ損な役目だったんだけど。 頑張った俺はみんなスルーですかい?

 結構痛かったんだけど…… ああ、もう次に移るのね。


 クリムゾンは縛られながらこちらを睨み叫ぶ。



「クッ、何をしようとしてるのかわからないけど、この大きな建物を歩き回ってもすぐ見つかるだけよ」



 浮遊機が監視しているからな……



「それに地図がなければまともに捜索なんてできやしないんだから」



 地図あるんですね。 この人すごく教えてくれるな。

 一応聞いてみようか……



「管理室ってどこにあるんですか?」


「二階の管理室なんて誰が教えるもんですか!!」



 全部教えてくれたぁああ!! 皆さぁああん二階です!!管理室!!


 だが、あの浮遊機の監視の目をどうやって掻い潜るかだが……



「儂に考えがある。この箱を再利用するんじゃ」



 爺さんいったい何を……


■ ■ ■ ■ ■



 倉庫の部屋を出ると無機質な廊下に繋がっていた。

 冷たい風が流れ込み、灰色の鋼鉄の廊下はより冷たさを増す。


 まずは階段を探すことが先決だが……



「なんで箱に隠れて行くんですかねぇ」


「名付けてメタル〇ア作戦じゃ!!」



 いつか本当に怒られるからな。


 大きなアマ〇ンの箱は五人が入る程の大きさ、そこに俺と爺さんとダージェフ、罠担当のブラウス、えっとあと一人名前は何だっけ……



「キャッサバだよ! いい加減覚えて欲しいんだが」



 ああそうだ。 スキンヘッドの色黒のタピオカさんだった。

 キャッサバはタピオカだからそっちでつい覚えちまった。


 むさ苦しい段ボールの中ゆっくりと歩みを進める。


 一応見張りもかねて倉庫には何人か待機してもらい俺達が管理室を探すこととなった。


 五人が入っているため移動するのも一苦労だ。

 壁際をゆっくりとした速度で掛け声を合わせて進んでいく。


「一、二」


「三、四」


「一、二」


「三、四」


「アルソッ〇」



 おい、誰だ!! 警備会社の名前を言ったのは!!



「止まれ、浮遊機だ」



 ダージェフの真剣な声にびたりと緊張がはしる。

 息を潜め、上空を通過していく浮遊機の音を聞きながら早く通り過ぎるのを待つ。


 いい調子だ。 これでこの廊下を通過する浮遊機は三台ともクリアだ。


 その時だった。


 ガチャリと徐に前方のドアが開き、作業着姿の二人の男が廊下に出てくる。


 まずい! ここは浮遊機が飛んでいるからあまり人通りは少ない方だと思っていたのに!


 ゆっくりとこちらに近づいてくる二人組の男。


 一気に脈拍は上がり、嫌な汗が流れる。


 確実に見つかったらこの作戦もおしまいだ。 



「ん? おいこんなところにアマ〇ンの箱なんかあったか?」



 ドッキーン!! 止めて触れないで。 見なかったことにして!!



「おいおい、それよりもその後ろの綺麗にラッピングされた箱もなんだ? こんなに廊下に並べてよう」



 ん? ラッピングされた箱?


 思い当たるのはダージェフが作った乗り込むための箱、たしか綺麗にラッピングされて……


 まさか!? 


 ダージェフが小声で伝える。



「そのまさかだ。 どうやらあいつ等俺らが心配でついてきたみたいだ」


 なにやってんじゃぁあああああい!!!

 え?もしかして今廊下にでかいアマ〇ンの箱と綺麗にラッピングされた箱がならんでるっていうのか?


 そりゃ誰だって怪しむわ!!



「いち、に、さん、し、…… おいおい、十個もあるぜ!!」



 多すぎ!! どんだけ心配してんだよっ!!


 あの浮遊機よく躱してこれたな!! 



「怪しいな。 さっきここを通った時は無かったぞ」



 やばいやばい!! ここにも感のいい奴が……



「待てよ…… もしかすると、室長の誕生日プレゼントか?」



 は?



「ああ、昨日あんなに煩く騒いでいたもんな、『誰も祝ってくれないぃいい』って、だから他の部署が気を利かせて持ってきてくれたんだろ」


「ああ、一度ぐずりだすと面倒くさいもんな室長」


「なんだ、室長のプレゼントなら廊下にでも置いとけっていうだろうな」


「言うな。 むしろ、やらなくていいまであるわ」


「んじゃ、問題なしだな。 休憩時間まで室長の事考えたくねぇし、早くサッカーしようぜ」


「いいねぇ」



 お前らは昼休みの小学生か。



 笑いながら去っていく二人組の男をやり過ごし、大きく息を吐く。



 馬鹿で助かったぁああああ。

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