第6話 爺さんが増えるなんて認めない
【ブレイディア大陸 ウルティマ】
ムキムキの厳つい男に案内されたどり着いたのはまるで工房かと思われる場所。
周囲は金属を加工するための窯があることもあり、非常に熱い。
すす汚れた布を押しのけ中へと進む。
薄暗い灯りに照らされ、様々な銃が立てかけられてる様を見て思わず唾を飲み込む。
本格的にヤバい所に連れてこられたのかもしれない。
額から流れる汗を拭い、ふと隣のドラ〇エの神父を横目で見る。
「ふぁっ、ふあっ、す、凄まじい暑さじゃ…… もう一歩も動けん……」
滝のような汗を流し、今にも枯れ果てそうだった。
「そんな服着てるからだろ……」
「儂の事は構わず…… 先にいけッ…… 止まるんじゃねぇぞい」
まだ工房の玄関を入ってすぐなんだが……
今は夜に差し掛かって外は若干涼しいが、日中この砂漠地帯で爺さんは生きていけないんじゃないか?
「駄々を捏ねるな。 引きずってでも連れていくからな!!」
「嫌じゃぁ!! くぁ!? 喉が締まるっつ!?」
爺さんの首元の襟を掴み、文字通り引きずって奥へと進む。
温度が上がる狭い室内を進んでいくと大きな工房へとたどり着いた。
そこには覗き込むと轟々と燃える大きな窯と、そこに木材をくべて火の勢いを増している一人の男性。
物音に気付きその男性がこちらを振り返る。
その姿は目を焼かれないようにサングラスをかけた、頭が少々禿げかかったお年を召している男性。
あれは…… 窯爺…… いや違うか。
「なんじゃ、見ない顔だのう。 ダージェフの知り合いか?」
サングラスを押し上げ爺さんはこちらを見る。
ジジイのワンペア……
喋り方が…… 全くといって言い程この神父のくそジジイと同じなんだが!!
あれか、年齢が高くなると男も女もよくわからなくなるという奴か?
「知り合いってわけじゃねえが、これから深く知るようになるっつーか」
止めろ! 頬を染めるな! 俺はお前と深い仲になりたくなんかこれっぽっちもねぇんだ!!
「ほう。 名は何という」
さっとこの爺さんも懐から勢いよく紙とペンを取り出す。
これはあれなのか…… みんなここの男は懐に紙とペンを常備してるのか?
「随分と賑やかじゃのう」
奥の部屋から声を聞きつけたのかぞろぞろとこの窯爺と同じ姿の爺さんが一人…… いや二人出てくる。
三人同じ顔!? 気持ち悪ッ!!
「おお、ダルス。 そいつが例のなのじゃな?」
「そうじゃ。 ついに完成にこぎつけたのじゃ」
「ふぉっふぉっふぉ。 見たら驚くぞい」
ジジイのワンペアから遂にスリーカードに……
奥から出て来た爺さん、 仮にここでの名前は先に居たのをジジイA、後から来た袋を抱えているジジイB、手ぶらジジイCとしておこう。
さて、問題です。
爺さんはこの部屋には何人?
「わ、儂とキャラが被るとは何事じゃぁあ!! 儂がオリジナルの爺さんじゃ!! それ以外のジジイは認めはせんぞぉお!!」
答えは四人。
やったね、フォーカードだよ。
誰得のフォーカードだよ!!
さっきまで元気の無かったドラク〇の神父もどきの爺さんが狂ったように抗議しだす。
それにしてもジジイのオリジナルがどうとか、知らんがな。
「なんじゃ!? この変な格好のジジイは!!」
「お主、このような場所で熱くはないのか!?」
「急に怒りだしおってからに……」
ああ、もう!!誰が誰で話してるのかまったくわからん!!
「そこになおれぃ!! 誰が真の爺さんかどうかここではっきりさせるんじゃ!! これは今後に関わる由々しき事態じゃぞ!!」
四人の中で誰が爺さんかを決める。
なんだそれは…… どれもただの爺さんだ。 帰っていいかな?
「急に仕切り寄ってからに…… 随分と偉そうな態度じゃのう。 いいじゃろう。 新入りよ、その勝負乗ってやるわい」
え……
「ふぉっふぉっふぉ! 威勢が随分いいのう。 久しく感じていなかった血がたぎるわい」
こっちも…… え? いきなりで理解しちゃうの?
「でだ。ただ勝敗を決めるだけじゃないのじゃろう?」
意外とノリノリなんだね……
「もちろんじゃとも。 負けた者は語尾を改めるのじゃ! 今後一切老人のような言葉遣いをしてはならぬ!!」
「なんじゃと!? 儂らのアイデンティティが!!」
そんなの気にしてたのかこの爺さん達……
「勝負にリスクはつきもんじゃ、それでこそ燃えるというものじゃ」
そんなに重要かねぇ…… 語尾……
「俺らは歴史の一部をこれから見ることになるのか…… こんな爺さん達始めて見たぞ……」
ダージェフと呼ばれた強面の男性が言葉を漏らす。
そんな歴史など捨ててしまえ!!
睨み合う四人の爺さん。
「勝負は公平を期すためにじゃんけんでどうじゃ?」
じゃんけんかい!!!
お前は小学生か!!!
「いいじゃろう。 内容もシンプルじゃしのう! 語尾の決定権は最後に勝ち上がったジジイに決めてもらうとしよう」
「三回勝負などという腑抜けた事は言わんのじゃろう」
「もちろんじゃ、勝負は一回。 それで全てが決まるのじゃ」
視線が交差する。
「思い残すことなどないな? 終われば全てが変わるのじゃ」
何? 誰か死ぬの?
ただのじゃんけんなんだけど!
「ふぉっふぉっふぉ!! いざ!!」
四人は円になるように囲み合う。
神父の格好をしたクソジジイは右手を高く掲げ天井を仰ぎ見る。
いる? そのポーズ?
ジジイAは両手を広げ、片足を上げて大きく息を吸い込み構える。
何その鷹のポーズ、そんなに声張らないだろ……
ジジイBは右手を床につけ、左手は…… 狐だ。 それをサングラスへと近づける。
意味が分からん。 予知してるのか?……
ジジイCはもはやブリッジだ。
それ、じゃんけんできるのか?
ついにどうでもいいジジイによるジジイの為の戦いが始まる。
「「「「じゃん!! けん!!!」」」」
す、すごい…… 神父ジジイは掲げた手が降りるまでにグーチョキパーを物凄い速さで切り替えていく。 高く掲げたのには相手に手の内を錯覚させるためか!!
「「「「ぽん!!!」」」」
風圧とその勢いで思わず手で顔を覆ってしまう。
どうなった!? 結果は……
まさかの全員パー!!!
「ぜぇっ、ぜえっ、や、やりおるのう……」
「ぐふっ、お、お主こそ……」
「い、命拾いしましたな……」
「まさかこれほどとは……」
なんで全員そんなに疲れてんだ?
満身創痍といった感じで肩で息を繰り返し、額の汗を拭う爺さん達。
これ、じゃんけんだよね?
「す、すげぇ!! あの爺さん達と対等に渡り合うなんて……」
あ、うん。 そうだね。
もうどうでもいいや。
「次で決めさせてもらうぞい」
再び構えを四人がとる。
まるで伝説の四獣。 青龍、白虎、朱雀、玄武の姿が浮かび出るような気迫だ。
絵面はただの爺さんがじゃんけんをするだけなんだが。
「「「「じゃん!! けん!!!」」」」
嵐が吹き荒れる。
天変地異が今まさに、起こるわけがないだろう。
「「「「ぽんッ!!!」」」」
チョキ、パー、パー、パー。
勝ったのはよりにもよって神父ジジイ。
「いよっしゃああああああああ!!! ざまぁみやがれぇええええ!!!」
口悪いなこのクソジジイ!!
神父の風上にもおけん!!
項垂れる三人の前に立ち、神父ジジイは一人一人に指を指していく。
「お主は、今から語尾は【ぴょん】じゃ」
無慈悲!!!
膝から崩れ落ちるジジイA。
「さ、最悪だぴょん……」
全然可愛くないウサギが誕生した。
次にジジイBへと指を動かす。
「お主は、【にゃん】な」
恐ろしい、恐ろしいよこのジジイ。
メイド喫茶も閉店に追い込まれる勢いだ。
「これも宿命にゃんか……」
受け入れた…… やべぇ、いままでこんなに可愛い語尾がこんなに気持ち悪いと感じたことはあっただろうか……
すっと最後の一人であるジジイCへと指が動く。
「お主は…… 【ってばよ】じゃな」
アウトー!!!
唐突な忍者設定!! みたことあるやつだから!!
それ、ただの爺さんだから!! 忍術使えないから、たしかに見た目同じだから影分身の術で三人になってるような錯覚もするけど。
大玉螺旋〇撃てそうだけども!!
「クソッ!! やっちまったってばよ!!」
あかーーーーーん!!!
「ふぅ、これでだいぶはっきりしたのう。 さて、ダージェフとやら紹介しては貰えんか」
「あ、ああ」
ようやく紹介に入るのかよ……
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