第3話 異世界が間違ってるなんて認めない
風は体を突き抜けていくようで、夕日が眩しいくらいに照らしている。
まるで気分は空を自由に飛ぶ鳥のようだ。
なんて思えるお花畑な脳内ではなかった。
雲ははるか真下。
風は直撃どころの話ではなく皮膚ごと持って行かれそうな勢いだ。
「ばぁぶるぶうううううううう!!!」
目を開けてるのでさえ精一杯。 景色なんて見る余裕もない。 意識を保っているのが奇跡だ。
そう、俺は今異世界でパラシュート無しのスカイダイビングの真っ最中だ。
「ばるうぶぶぶぶびびび!!!」
なんてひどい顔をしているのだろうって? 誰でもこんな高度から落ちたらこんな顔になるわぁああああ!!!
首がもげる。 マジで!!
下手したら俺、二つに分かれて落ちちゃうよ? 彗星も真っ青な汚い隕石になっちゃうよ? このまま誰かの体と入れ替わっちゃうよ?
入れ替わったらそいつに待っているのは紛れもない死だけどな!! ざまぁみやがれ!!
「ほっほっほ、若いもんは元気があるのう」
かろうじて視線を左へ移すとそこにはシャボン玉のような物体に入った、爺さんの姿。
風の抵抗もなく、落ちるスピードと同じくらいにぴったりと真横に並ぶ。
「どうしたんじゃ、その酷い顔は? 何かいいことでもあったのかい?」
「おぼぼぼぶぶぶべべべばばばばば!!!!」
(ふざけんなよ!!このクソジジイ!!!)
何優雅に見下ろしてんじゃボケェエエエエエ!!!
「ぶぼおおばばばばば!!!」
(俺もそれにいれろよ!!)
「なんじゃ? ちゃんとした言葉じゃないと伝わらんぞ?」
「ぶぼぼぼべばばばばぼべえええええ!!!」
(こんなんで喋れるかボケェエエエエ!!!)
爺さんがパチンと指を鳴らす。
すると柔らかい膜のようなものに体がぶつかる。
「ぶっ!?」
どうやら爺さんが入っているのと同じ性質のシャボン玉のようだ。
むくりと体を起こし、爺さんを睨む。
「はっ倒すぞ!!爺さん!!」
「なんじゃなんじゃ、軽いちょっとしたジョークじゃよ」
ジョークの域を超えてるだろ…… こちとら首がもげるとこだったんだぞ!?
二つのシャボン玉が分厚い雲に突入する。
「そろそろ見えてくることじゃろうよ、緑と水に彩られた世界【バルーン】がのう」
今のでどっと疲れたが、この雲間を抜けたらようやく異世界が拝めるんだな……
シャボン玉に手を押し当てしっかりと目を凝らす。
ようやく夢にまでみた異世界だ。
高まる期待とちょっとした不安をポケットに押し込んで、雲間の隙間を眺める。
……ポケットこの服無かったわ。
雲間が晴れる。
眩い夕日が顔を照らす。
目下に広がる世界はいままでの灰色のビルが立ち並ぶ世界とはまるっきり違かったのだから。
「……うわぁすげぇ!」
言葉にできないといのはまさにこのこと。
想像を遥かに超え、斜め上を行く。
「めっちゃ砂漠!! 緑どころか黄土色なんだが!!」
エジプトか!?と思うくらいの砂漠が一面に広がり、小さく明かりがついて見える主要都市と思われる場所は近未来かと思うくらい金属製の建物がいくつも立ち並んでいる。
「なんじゃ…… これは……」
爺さんが素で驚いているような声を漏らす。
「え? 爺さん? あんたが連れてきた異世界だぞ? ボケたのか?」
「ボケてないわい。 しっかりと昨日観たAVの内容まで完璧じゃ……」
「その情報いらんわ」
「いやいや、はっはっは疲れておるんかの? 緑と水の魔法の世界【バルーン】がこんな砂漠地帯なわけ…… なぁに急に砂漠化したのじゃろうよ」
「んなわけあるか! 絶対その【バルーン】って世界じゃないだろ」
「なんやて!? ステラちゃん間違ごぉてしまったんか!!」
何故に大阪弁なんだよ。
「それに…… さっきからというか着替えた時から言おうかと悩んだんだが、なんでその…… ドラ○エの神父みたいな格好してんの?」
「魔法の世界といったらこれじゃろう!」
知らんがな。
上から下まであの某有名ゲームドラ○エの教会の神父。
青いローブに十字架のマークの入った帽子。
はっきり言って目立つ。
「きっとここもド○ドーラの街の近くなんじゃろう。 とりあえず降りたらメル○ドへ行けば情報が貰えるはずじゃて」
「爺さん現実を見ろ!! ここはドラ○エの世界じゃない!!」
虚ろな瞳で爺さんはブツブツとセーブデータ復活の呪文を口ずさむ。
「いやはや、忘れておったわ! ステラちゃんに戻してもらえばいいんじゃ、なんでこんな簡単なこと忘れておったんか! そうと決まれば早いとこあの村へと降りるぞ」
「え!?」
シャボン玉は勢いよく速度を上げ落下していく。
地上から見る人にはきっとこう見えるだろう。
親方!! 空からひどい顔した男と爺さんが!!
ほっとけ!!
爺さんが速度をあげるからシャボン玉の膜が顔に張り付き、まるでストッキングを頭から被った芸人みたいになってるんだ。
「ぶぼぼぶぶぶ!」
(このまま降りるぞい!)
「ぼっぼぶぶばばっば!!」
(もっといい方法無かったのかよ!!)
汚い顔面を晒してすいません。
厄災が起きたとか騒がないでください。
精神的に傷つくんで。
地上にようやく降り立つとシャボン玉は割れ、ふらつく足で立ち上がる。
「ステラちゃんやーい! 戻してくれんかのぉお!!」
両手を掲げ必死に空に語りかけるドラ○エの神父は今は置いておこう。
息を整えすっと両手をあげる。
「あの…… 怪しいですけど危険な人物じゃないので、どうか撃たないでもらえると嬉しいかなぁ…… なんて」
村のいたるところから俺たちに向けて銃口が向けられている。
どれも日本でゲームなんかでよく見た銃のような機械を村の人が手に持ちそのレーザーポイントが俺の頭を完全に狙っている。
まさに絶対絶命の中にいるわけだ。
どうしてこうなった? Why? 漏らしちゃいそう……
「お前達、帝国の人間じゃないのか?」
銃のような物を持ちながらしっかりと俺の頭に狙いを定めている女性。
青髪のポニーテール、きりっとした整った顔、砂漠の色に溶け込むような迷彩服を着込んだ二十代の女性が話しかける。
「て、帝国!? 賃金がペリカで支払われるあの帝国?」
「何を言っているんだ?」
あ、そっちは帝愛だった。 いやいやボケてる場合じゃない。
まじで地下行きになりかねない!! 下手したら永遠に死体として地下に葬られる!!
「ち、違います!違います!! 俺も何がなんだかわからなくて!!」
「あの変な服の爺さんもお前の仲間か?」
ちらりと視線を移せばドラク○の神父こと爺さんはまだ空に助けを求めていた。
「あれぇ? あれぇ? ステラちゃーん? ステラちゃーんやーい!」
レーザーポイントが当てられているのなんてお構いなし、すげぇよアンタ。
そうだ。あのじいさんにはここでお別れだ! ここできっぱり言おう。
「違いま……」
「そうなんじゃよ! 儂らマブダチなんじゃ!!」
はっ倒すぞ!!このジジイ!!!
誰がマブダチじゃああ!! 今時使わんわぁああああ!!!
「は? マブ…… ダチ?」
ほら、知らない言葉に戸惑ってるだろ!!
「マブダチとはな、仲間と同じ意味じゃ。 親友! ベストフレンド!!」
海外の人に日本語教えるの下手くそか!!
「代われ、俺が聞き出す」
ずいとポニーテールの女性を押しのけ前へと出る厳つい筋肉質の男。
灰色の髪をオールバックにしている色黒の威圧感のある顔が怖い。
ああ、ヤンキーに絡まれたガリ勉君の気持ちが今ならわかるよ。
猛烈に漏れそう。
「おうコラ」
「は、はいっ!!」
思わず声がうわずってしまう。
「名前を教えろください」
「…… 中島 湊……」
猛烈な勢いで迷彩服のポケットから紙とペンを取り出し、書き込んでいく。
ねぇ…… 名前の最初になんではなまるを書いたんだ?
「おうコラ、次は趣味を教えろください」
「……ゲーム」
ねぇ…… なんで趣味を聞いた? なんでぐるぐると丸で囲んで横に重要って書いてんの?
あれ、おかしいな…… この人顔がほのかに赤いんだが……
視線も合わせてくれないんだが。
「おい、ダージェフ! 何をさっきからやってるんだ?」
そのポニーテールの女性の言うとおりですよ?
「わーってるよ! これで最後だ。 好きな食べ物を教えろください」
……
なにこれ?
「ちょっとすいません」
断りを入れ、爺さんの首根っこを掴み、ダージェフと呼ばれる男性から距離を取る。
さすがにこの状況で逃げようなんて考えてない。
今一番聞きたいのはコイツだ。
「おい。 俺の能力はいったいなんだ?」
爺さんはようやく気がついたのかとニヤリと笑う。
「魅了じゃよ! もちろん同性のみのな!!!」
「このクソジジイぃいいいいい!! なにしてくれてんだこらぁああああ!!!」」
通りでおかしいと思ったんだよ!! あの顔が厳つい筋肉ダルマみたいな男の人がまるで乙女じゃん!! 恋する乙女じゃん!!!
「はっはっは!!! お主が言ったんじゃろうが! ハーレムになりたいと、モテモテになりたいと! 儂はその願いを叶えてやったまでじゃよ!! 同性のみじゃがなぁあああああ!!! ざまぁああああああ!!!」
ついに本性を現したかこのジジイ!
こじらせた童貞はここまで落ちるのか……
「今すぐ能力を解除しろぉおおおお!!!」
「あっはっはっは!! 能力は天界でしか変えられん! 精々ハーレムとやらを満喫するんじゃなぁあああ!!」
「このクソジジイがァああああ!!!」
最悪だ。
最悪すぎる。
「オイこら、言い合ってるとこ悪いんだけどさ、好きな食べ物を……」
「「煩いッ!!!」」
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