第2話 ガイドよりオペレーターが可愛いなんて認めない

「異世界!? えっ異世界に行けるのか!?」


 自分でも思った以上に声が出てしまったことに驚く。


 爺さんはくるりと振り返りニヤリと笑う。


「そうじゃよ、お主も夢こがれたことくらいあるじゃろう? 魔法飛び交う世界や剣と魔科学が発達したまさにファンタジーと呼ばれる世界に行ってみたいと思っておっただろう?」


 こういう神様がファンタジーとか使っていいのだろうか……

 顎鬚を撫でながら爺さんはさらに続ける。


「本来であればそういった世界に行く代わりに生まれ変わった先の寿命やら容姿やらを対価として支払われるサービスのひとつなのじゃが、なんと今回は特別大サービスでお主はそういったリスクなしに、つまり無料で受けることができるのじゃよ! いやぁついておるのう!!」


 爺さんは両手を広げ声高らかに笑う。

 そして手元のカルテをすっと背面に隠した。


 なぜわざわざ背後に隠すような仕草を……


 ……まぁいいや、タダでリスクなしに受けられるんだったら乗らないわけないもんな。 夢にまでみた異世界か…… あっ、もしかしてスキルとか特別な力とか……

 聞いてみるか……



「あの、もしかして異世界に行くとしたら特別な力とか貰えたりするんですか?」



 いわゆるその世界で最強となる力。 世間ではチートと呼ばれるものだ。

 こういった異世界転生物は決まって何かしら主人公にチートの能力が備わっていたり、なぜかハーレムを築いたりするのがお決まりだ。


 できれば俺もカッコイイ能力とかハーレムを築いてみたい。


 いいじゃないか、だって男の子なんだもん!!



「ほほう。そこに気が付くとは…… もちろんちゃんと用意してあるわい。 ちなみにじゃが、どんな能力じゃったらとか希望を言うてみい」



 えっ!? まさか自分で決めることができるタイプのやつなのか!?



「そ、そうだなぁ…… 最強の魔法が使えるのもカッコイイし、知識チートっても憧れる…… まてよ…… 別に戦いたいわけじゃないから異世界でのんびりってのも悪くない…… 決めたぞ! 俺はハーレムを築きたい!! モテてモテてモテまくりたい!!」



 アニメで見る主人公は皆モテていた! 一度も女の子とまともに話せなかった十六年間! 俺は変わる。 変わるんだ。

 これからは女性にモテて困り果てるぐらいモテまくる生活にしていく! 絶対だ!!



「ほほう。 お主さては童貞じゃな」


「べべべ、別にど、どどどう童貞ちゃうわ!!」



 あれ、日本語ってこんなに言いづらかったっけ? お、おかしいなぁ……

 汗なんかかいていないのになぜか冷や汗が流れる感覚に襲われる。



「はっはっは! 恥じることはない。 童貞の何が悪いんじゃ、かくいう儂も童貞じゃよ」



 え…… なんだろう。 それはちょっと引くわ。


 急に可哀想な生き物を見る目に変わったとしても仕方ないだろう。

 そうか…… 爺さんも苦労していたんだな……



「大体はわかった。 お主がこれから向かうのは魔法溢れる世界【バルーン】という世界じゃ。 ステラちゃんおねがいできるかのう?」



 虚空に話しかけるように爺さんは上を向きステラと呼ばれる者に話しかけた。



『は、はい。 接続は完了しています。 初めまして湊様。 今回オペレーターを務めますステラ=スウェータル=ハイソンと申します』



 天空から可愛らしい女性の声が響き渡る。

 どこかたどたどしくて慣れていなさそうなのだが、声からわかる。


 間違いなく可愛い子だ。



「ステラちゃんは入ったばっかりの新人でのう。 至らない点があるかもしれんが多めにみてやってくれ」



 やめてくれ、爺さん。 気持ち悪いからウインクしないでくれ。

 そして喋らないでくれないかな、ステラさんの可愛い声が聞こえないだろう。



『は、はい。 精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!』



 可愛い。 どうしてこの子がガイドじゃないんだ……



「儂も着替えるかのう」


「は?」



 みるみるうちに爺さんの姿が長老みたいな姿からローブを羽織った神官のような姿に衣装チェンジしていく。


 誰得の変身シーンだろうか……


 爺さんの着替えシーンを見てしまった数秒前の自分を殴り倒したい。



「やはり魔法の世界といったらこれじゃな」



 知らんがな。



「まぁガイドとはいっても最初の街の道案内をしたらすぐに帰還するから安心するといい。 後はお主しだいじゃからのう」


「なあんだ。 良かった! ずっとついてくるのかと思った」


「心の声が表に出ておるぞ」



 しまった。 つい、それだけが心配だったからな。

 さっさと街について爺さんとはおさらばだ。



「では、始めてくれんかステラちゃん」


『は、はい。 出力四十パーセントを突破です』



 周りを見渡せば変わらぬ白い空間のまま。 いったいこれからどうやって異世界にいくのかオラ、わくわくすっぞ!!


 高まりすぎて悟空になってしまう。


 だって異世界だぜ? テンションがあがりまくるだろう?

 ただ一つ残念なのが何故ガイドが爺さんなんだよ。 オペレーターのステラさんに今すぐ変えてくれ!今すぐだッ!!


 チェンジ! チェンジを頼むッ!!



「どうしたそんなに儂を見よってからに…… はっ!? まさか……」


「んなわけあるかぁあ!! そんな潤んだ目で俺を見るんじゃない!!」


『出力七十パーセント突破、衝撃に備えてください』



 え? 衝撃? 笑劇? いったいどれのことだろう? ステラさんは可愛い声だけじゃなくユーモアもあるのか。いいなぁステラさん。一緒に行きたかったなぁ……

 それに比べ、本当にガイドは爺さんのままなのか。


 ため息を溢し上を見上げる。


 せめて最後までステラさんの声は聞いていようと。



『出力百パーセント、行きます』


「ふぁ!?」



 浮遊感が体を包む。

 景色がぐるりと変わる気がして、みれば足元がなくなっている。

 いや、違う。 現在進行形で落ちているのだ。



『いってらっしゃいませ~』


「うあぁああああああああああ!?」



■ ■ ■ ■



【sideステラ】


 ノイズが響き通信が繋がる。



『どう? もう行った?』



 綺麗な大人っぽい女性の声。 これはマリアさんだ。



『は、はい。 ちょうど今出発したところです』


『やったわね。 メル、エルミナ準備はいい?』


『はい』


『準備完了ですわ』


『隔離作戦開始!』



 私も手元にある操作盤を動かす。 するとみるみるうちに異世界への門は閉じられ、メルさんが行った冷却装置で一瞬で門が凍りついていく。


 エルミナさんが用意した重火器がチャージを終え、次々に凍りついた門に弾丸が撃ち込まれていく。


 凍っていた門は次々とヒビが入り大きく砕け散った。



『やったわ……』


『ようやくあのセクハラジジイを隔離することに成功したわよ!!』



 嬉しそうな声がこちらにも伝わる。



『やりましたね、マリアさん』


『ええ。 ステラも別世界への搬入お疲れ様。 今夜は私のおごりで飲みに行くわよ』


『やった~、どこに飲みにいきますか?』


『いつものとこよ』


『私クーポン溜まっているんでしたわ。 安く済みますわよ』


『さっすが、エルミナね。 用意がいいわ』


『ですが…… あの人には少し悪い気がしますね……』


『ステラは真面目ねぇ、あのセクハラジジイのミスでカルテにお茶がこぼれて運命が変わった人のことでしょ? トイレで死ぬような人よ、きっとロクなことしてこなかったのよ』


『わかりますわ、トイレですものねぇ』


『? どういうことです?』


『ステラにはまだこういった話は早いよ、ステラも気にしなくていいからね?』



 メルさんが優しく気にしないでと言う。



『でもそう言われると気になります』


『エルミナが思わせぶりなこと言うからよ』


『ふふふ。 続きは飲み会でですわね』


『さぁ着替えて行きましょ』


『はぁーい』

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