別れ

 俺の運転する車で、七人はキャンプ場に向かっていた。俺はツカサとシンヤを誘っていた。ヒカルはワカコとアキコ、そこにシノブがいればいつもの四人組である。しかしシノブは今、住んでいる場所が遠くて来られないらしく、そしてさっきから何故だかまったく理解出来ないでいるのであるが、彼女がいるのである。


 何故ここに彼女がいるのであろうか。俺は状況を飲み込めず混乱していたが、俺が彼女の勤務する会社で彼女に会ったこと、その後ヒカルに電話をしたこと、これらが絡み合って、今、いるはずのない彼女がここにいる。俺の車に乗っている。嬉しかった。状況は飲み込めないでいたが、とにかく嬉しかった。きっと俺は彼女の事が好きなのであろう。


 キャンプ場に行く前に、観光をする事になった。キャンプ場の近くにある有名な観光地で、絶景が見られるらしい。そこには海が見える展望台があり、駐車場に車を置いて、十分ほど歩くと展望台があった。俺はツカサと話しながら歩いた。その後を歩きながらヒカルとワカコも話している。アキコは一人で前を歩いていた。シンヤと彼女は一番後ろを歩いていた。展望台でもシンヤと彼女は仲が良さそうだった。俺は嫉妬しているのか。

 展望台からの景色は確かに絶景であった。遠く水平線の手前には島が見え、いつかあそこの島まで行きたいな、などという話で盛り上がった。しかし、俺の気持ちはなぜかスッキリしない。それは彼女がずっとシンヤと話しており、一緒にいるにもかかわらず、むしろ遠くにいる存在のように感じたからである。


 キャンプ場に着いて、俺たちはテントを張り、食事の準備を始めた。テントはヒカルとワカコ、アキコ、彼女のために1張り、俺とツカサ、シンヤのために1張り。食事はバーベキューにした。キャンプの定番である。


 バーベキューを楽しみながら、クラス会では話せなかった事や、近況報告などをした。緊張が解けたのか、ヒカルと話すのと同じように、彼女とも話す事ができた。屋外という環境がそうさせたのでかもしれない。まあヒカルと話す時と同じと言っても、俺はヒカルと話す時だって緊張するんだけどもね。酒を飲みながら、七人でいっぱい喋った、と言いたいところだが、俺はツカサとヒカル、ワカコとはいっぱい喋ったが、アキコとはあまり喋っていない。アキコ自身がもともとあまり喋るほうではない。そしてシンヤと彼女とは、あまり喋っていない。シンヤと彼女は二人で多くを話していたようだ。


 あっという間の二日間であった。楽しくもあり、悲しくもあった。それはみんなを家まで送り、最後にツカサの家に向かう途中でツカサが言った一言が頭から離れなかったからだ。彼女がシンヤの事を好きらしいという事が。



 キャンプの後、俺たち七人はよく会うようになっていた。七人じゃない時もあったし、たまにはシノブが来ることもあった。

 シノブが来た時には、俺はやはり嬉しかった。彼女の事は気になるのであるが、彼女は俺には振り向いてくれないだろうと感じていた。別にシノブを彼女の代わりとして考えていた訳ではない。シノブは相変わらずの活発さで、俺はシノブと話すと心地よかったのである。


 ツカサから聞いた言葉は頭から離れなかった。でもその言葉は、彼女の気持ちであり、シンヤの気持ちではない。だからあの二人は付き合っている訳ではないんじゃないか、そう思うように変わっていった。なぜそんな都合のよい解釈をしたのか、それはどうしても自分の想いが抑えられなかったからであろう。そして俺はついに、彼女をデートに誘う事にしたのである。


 意を決して彼女に電話をした。結果は言うまでもないだろう。フラれたのである。当たり前である。あの二人が付き合っていなかったとしても、少なくとも彼女が好きなのはシンヤであり、俺ではない。



 その後の集まりに彼女は来なかった。俺のせいではないだろう、たまたまスケジュールが合わなかっただけであろう。彼女の来ない集まりは少し寂しかった。もちろんヒカルやワカコと話すのは楽しかったし、無口なアキコはいつも見守ってくれているサラスヴァティーのような雰囲気であり、その場にいるだけで、みんなの心が和んだ。しかし、俺の寂しさはいつまでも無くならなかった。俺はフラれてもなお、彼女に会いたかった。不思議な感じがした。



 暫くして、彼女が結婚すると言う連絡が入った。俺たちは六人でお祝いを贈った。五人ではなく、六人でだ。つまり彼女の結婚相手はシンヤではなかったという事だ。



 彼女は結婚して、この街を出た。俺は益々この街が嫌いになった。それでもこの大嫌いな故郷に住み続けていた。


 俺は今でも彼女がいた会社に打ち合わせに行く。しかしそこにもう彼女はいない。結婚前に会社を退職したのだ。その会社に行けば彼女の事を思い出したが、それ以外の時間は彼女の事を思い出す事は殆どなくなっていた。そんなある日、彼女が突然、俺の家に来たのである。赤ちゃんを抱いて。


 なぜ俺のところに来たのかは分からない。でも来てくれたのは嬉しかった。そして交際相手もいない独身の俺は悲しくもあった。



 その後、彼女と会う事はなかった。

 そして何年かのうちに、みんな結婚をした。まずはワカコが結婚し、ヒカル、シンヤ、ツカサ、アキコと続いた。俺も結婚した。結婚前に、あの小さな広告代理店は退職していた。退職金は出なかった。

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