第16話 海に沈む瞳

 学校を出た後、駅までの夜道で俺は考えた。

 

(なんで高瀬さんは、よりによって俺みたいな普通の人間に興味を持ったんだ?三島さんのほうが、中身は置いといて、見た目だって可愛いし。大体、俺はただの後輩だし。…つかあの保険医、チャラチャラしすぎだろ。さっきは納得しちゃったけど、本当に高瀬さんのいとこのなのか?)


 余計な感情がよぎった自分に呆れたところで、駅に着いた。


「あ、定期定期っと。」


 鞄の中を探していると、やわらかい紙の感触が手に当たる。外に出してみると、昨日買ったピン止めだった。


(渡しそびれた。まあ、今日はそれどころじゃなかったしな。」


 俺は今度こそ定期を取り出し、改札に向かった。





 次の日の午前中は高瀬さんを見かけなかった。今日は高瀬さんと被っている授業はないから、会わなくても不思議はない。だが俺は彼を探して、休み時間などに動き回っていたし、授業のぎりぎりの時間まで廊下にいたりした。

 割と最近は高瀬さんに会えることが多かったし、高瀬さん自身も3年生で少なくなった授業でも、毎日学校にいた。


(なんでこんなに探してるのに…。昼休みにあそこに行ってみるか。)




 俺は昼休み、高瀬さんがよくいる中庭のベンチに行った。


「あれ?」


 高瀬さんの姿はなかった。


(おかしいな。…今日は学校にいないのかな。昨日のこともあるから、来なかったとか…でも、だからこそ話がしたいのに。)


 俺はベンチに座って息をつく。そして高瀬さんがいつもやっているように、ベンチの背もたれに体を預けて空を見た。今日の空はこの季節らしくなく、雲が多い。最近はずっと晴れてたのに。


「高瀬さん、空好きだよな。」


 つぶやいてみると、天文部の窓からこのベンチが見えることを思い出す。俺は校舎のほうを振り返る。


(えっと、二階の奥から三番目の窓…)


 部室の窓は開いていた。そこから白いカーテンが出たり入ったり、風に揺られている。そのカーテンの隙間に彼はいた。


「…高瀬さん!高瀬さーん!」


 大きな声で呼ぶと、高瀬さんはこちらに気が付いたようで、一瞬悲しい顔をしてカーテンの端をつかみ、閉めようとした。

 なぜだろう。俺は高瀬さんに何かしてしまったのだろうか。

 とにかく話をしなくては。


「高瀬さん!行かないでください。今からそっちに行くので待っててください。…絶対ですよ!!」


 俺は窓に向かって一気に叫ぶと同時に走り出す。


 高瀬さんが俺をみて隠れようとした理由はわからないけど、このまま会わずに話もしなかったら、二度と彼と話すことはできない。そう思ったのだ。




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