第14話 夏の夜風
俺が三島さんの去って行った方を見たまま固まっていると、肩に高瀬さんの手が置かれた。
「大丈夫?……ごめん、僕のせいだ。」
「いえ、…三島さんが勝手にやったことだし、俺も少し気を抜いてました。」
そう言って俺は頭をかいた。高瀬さんは下を向いている。
「…高瀬さん?」
「へ?…ううん、なんでもない。ほんとにごめんね。怪我がなくて良かったよ。…じゃあ僕はもう帰るよ。部室に荷物を置いてるなら鍵は頼んでもいいかな?」
高瀬さんはきっと俺が手ぶらなのを見ていたのだろう。現に荷物は部室に置いたままだ。
「あ、はい。」
「じゃあ、さようなら。」
高瀬さんは、そのまま行ってしまった。
俺も荷物を取りに部室に向かう。一人で残って星が出るまで待つのも何だか落ち着かなさそうだし、そもそも俺自身、天文部でもないので帰ることにした。
俺は部室の戸締りを確認してから、鍵を返しに事務室へ行った。鍵を返す手続きをしていると、そこへ保険医が入ってきた。
「おう、広川くんじゃない。」
そう言って俺の横まで着て借用書が置いてあるカウンターに肘をつく。
「どうも。」
俺はいろいろと考え事もあり、そっけなく答えた。
「…お前、高瀬と何かあったの?」
鋭すぎる。いや、これは情報が回っただけか。どちらにせよ、保険医には全くいらない能力だ。
「いえ、その…まあ、はい。」
「だろうな。お前、天文部じゃないのに部室の鍵返してるし。…さっき三島が泣きながら保健室に来たよ。」
「え。」
「駄目だろ、女の子泣かせたら。」
「…別に俺は何も。」
もしかしてこの人は、何があったかも全部知っていて、それでからかっているのではないだろうか。俺は思わず溜息をついた。
「何で知ってるんですか。」
「まあな…ここじゃ何だし保健室来いよ。」
いつぞや(ついさっき昼頃に)も聞いた台詞だが、俺はこのまま帰るのも正直落ち着かないので、行くことにした。
(なんでこの人はこんなにいろいろ知ってるんだよ…もやもやする。)
俺は抱えていた疑問を押さえきれずに、保健室に入った瞬間はきだした。
「先生は何を知ってるんですか。全部知ってるんでしょう?教えてください!」
保険医は驚いたように一度目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「まあまあ、茶でも飲みながら話そうな。とりあえず座れ。」
そう言って急須に茶葉を入れ、ポットから湯を注いだ。
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