第11話 風の便り
昼休み、俺は一人で学食にいた。斎藤も他の友達も別に用があるらしい。今日は学食のうどん(温玉のせ)を食べている。
朝の一件があってからずっとそのことを考えてしまう。高瀬さんはあの後、教室には戻って来なかった。
(大丈夫だったかな…そんなわけないよな。)
半分上の空でうどんをすすっていると、俺が座っていたカウンター席の斜め後ろから声がかかった。
「よう。」
振り返ると保険医が立っていた。
「どうも。」
「今日、高瀬大変だったらしいな。」
「…何で知ってるんですか?」
この人は本当に何者なんだ。つかみどころがないし、なんでも知っている。
「まあ、な。…高瀬も苦労するよね。」
「…どういうことですか?」
「え。お前聞いてないの、何も?」
そう言って俺を見つめる。だから先生が知りすぎなんじゃないのか。
「何もって?」
先生の情報網のすごさは置いておいて、今は高瀬さんの話が大事だ。
「…。」
「何もって言うことは、何かあったんですか?」
「…まあ、そうだよな。あいつはそういうの言わないからな。」
先生は、聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいた。
「広川、ここでは大きい声で話せないからはやくそれ食って付き合え。」
そう言われて急ピッチでうどんを食べた俺は保健室に連れてこられた。
「まあ、座れよ。」
そう言って先生の椅子と対面する丸椅子を勧められた。俺が椅子に座ると、話が始まった。
「まあ、あいつもお前になら心開きそうな気がするから話しとくけどな。高瀬にコーヒーをかけた女はうちの大学の去年度のミスコン、準ミスの三島愛梨。顔は準ミスだけあった可愛いけど、中身はお嬢様でかなりわがままらしいな。ミスなった女子生徒よりも顔は可愛かったけど性格のせいでミスを逃したっていう噂があるくらい難ありだ。」
そう言って、先生も俺の目の前の椅子に腰を下ろす。
「三島はいつからか、高瀬に目をつけていた。まあ高瀬も顔がいいからな。他のやつは近づかない人間でも、三島はかまわなかったんだ。今年の四月からは何度もデートに誘っていたらしい。けど、当の高瀬は恋愛には興味ゼロだろ。」
「その結果、あんなことが起こったと…。」
「まあ、そんなとこだ。」
「…何で先生はそんなに知ってるんですか。」
やっぱりこの保険医はちょっと怪しい。
「まあ、俺にもいろいろあるんだよ。」
「また女子生徒情報ですか?」
「まあ、そんなとこだな。…お、あと十分で授業だぞ。」
保険医は時計を見て言った。
「あ、行かなきゃ。お話しありがとうございました。」
「おう、またな。怪我で来るなよ。」
「怪我じゃなかったら、いつ来るんですか?」
「そうだよな。」
そう言って彼は頭をかいた。俺はもう一度お礼を言って保健室を後にした。
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