第9話 手の中の星

 ハーフパンツをはいていた俺はガーゼや湿布が丸見えの状態で帰らなくてはならず、少し恥ずかしかった。けれどロングパンツだったら、それはそれで傷と擦れて痛そうだから、こちらの方が良いと考えよう。


(それにしても、どうして俺は大して寝不足でもないのに高瀬さんにおぶわれたまま寝てしまったんだろう。なんか情けないよな…。)


ーでもきっと安心したのもあるだろう。

 脚に力が入らなくて立てなくなっていたし、知っている人が来てくれたのも心強かったのだと思う。


(次に会ったら、ちゃんとお礼を言おう。)


そんなこんな考えているうちに学校から最寄りの駅に着いた。


「本屋でも寄ろうかな。」


 授業もなくなって何かもどかしかった俺は、本屋を目指して駅ビルを歩いていた。そこでふと、アクセサリーの専門店が目にとまった。きらきらしたアクセサリーに照明が当たって、星のようにも見えなくはない。高級な店ではなく、ごく庶民的な店のようだった。

 何となく店に入り眺めていると、ある一つの品が俺の目を引いた。

 それは星の形の飾りやストーンが散りばめられている金色のピンだった。


「これ、きれいだな。」


手にとって見ていると、女性の店員が声をかけてきた。


「それくらいの大きさだと、前髪を止めたりするのに便利ですよ。」


「…じゃあ、これ買います。」


「はい、ありがとうございます。プレゼントですか?ラッピングもできますよ。」


ラッピングまですると、何だか気合を入れすぎて恥ずかしいような気がした。


「ああ、ラッピングは大丈夫です。」


「かしこまりました。」


 俺は少し明るい水色の紙袋に包まれたピンを受け取り、家路についた。




 翌日の午前の授業。電車が少し遅れたので、ぎりぎりの到着になってしまった。

 いつも座っている後ろのほうの席は、もう空いていない。座るところを探して教室内をうろうろしていると、高瀬さんを見つけた。高瀬さんの周りは、相変わらず聖域のような空気が満たしているため席が空いていた。


(…高瀬さんの隣、座ってもいいかな。)


そう思って高瀬さんが座っている席に向かって歩き出す。

 もう、声が届きそうな距離に来た。


「高瀬さ…」


「ねえ、海斗くん!何でなの?!」


 人影で見えなかったが、高瀬さんの席の脇の通路に女の子が立っていた。


「えっと、ほんとにごめん。前にも言ったけど、そういうのには興味がないんだ。」


「…もういい!」


 何か言い合っていたようだが、女の子は会話を切り上げた。そのまま立ち去るかと思った矢先、女の子は持っていた紙カップを高瀬さんの頭の上でひっくり返した。


「え…」


 俺には一瞬何が起こったのかわからなかった。

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