第5話 空の向こう

  青空へてを伸ばしてみる

  それは見つめていれば落ちてきそうだが


  触れることはできない。



 人は勝手な生き物だ。


 自分たちで自分たちのためのルールを決め、時にそのルールを破る。

 それは自由とは違う。どちらかと言うと、自分勝手という方が適当な言い回しでだ。

 自然界で種の繁栄のためだけに生きる生き物たちの方がよっぽどルールに誠実である。


 そんなことを考えながら自分の思考に半ば呆れていると、後方からベルが聞こえてきた。


「チリンチリン」


そして僕の横をもうスピードの自転車がすり抜けていった。それと同時に「チッ」という舌打ちが耳をかすめた。


 どんな生命が持っている命の物語だってそれぞれの思いを乗せて一時一時、大切に刻まれるべきだ。

 ふと空を見上げる。ー空は自由でいい。どこまでも広く、大きく、誰の頭上にも平等に広がっている。

 そして空の向こう、遠いところには無数の星があり、人間では知り得ない星々がたくさんあるのだろう。


 僕には空がとてつもなく遠く感じる。僕はまだ、空の何を知らないのかも知らない。


「空、そら、ソラ。」


 言葉に出してみても゛ソラ゛という言葉の音自体、人間が創造したものだ。


 そんなことを考えていて、チャイムの音で我に返る。気がつくと、大教室のいつもの席に座っていた。

 勉強は嫌いではない。ただ、やっても全てが役に立つわけではない。


 僕の周りの賑やかだった学生は教室に講師が入って来ると徐々に静かになっていった。



 今朝は少し暑さを感じる。授業中にふと視線を感じた。視線の主を見ると一人の青年がいる。彼の名前は広川空。


 軽い会釈をお互いに交わす。まだ少ししか話をしたことはないが、おもしろい子だとおもう。ーあと、とてもきれい。

 彼の笑顔は透き通るような印象で人を引き付けるものがある。深く付き合っている友人は多くなさそうだが、誰とでも自然に話すから、知り合いは多いのではないだろうか。


 宙くんはどんな子なんだろう。

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