幕間1

 私の呼びかけに応じ、程なくして血に濡れた若い探偵が閉じられた部屋を破り近づいてきた。


「お前が依頼人か?」


 満身創痍で立っているのも辛そうな様子だったが、そんなことは御構い無しに彼は問うた。


 自分で呼びつけておいて何だが声を出すのが億劫だったので私は頷くことで肯定の意思を相手に伝えた。


 すると探偵は心底嬉しそうにニカッと笑い程よく筋肉質な両腕で私のことを抱え上げると割れ物を扱うように慎重に私を外へ連れ出してくれた。


 何がホンモノで何がニセモノか。


 そんなことばかりを思案していた私にとって外の世界は刺激に満ちていた。


 無為の空間で世界の殆どのことは知識として知っているつもりでいたのだが……百聞は一見にしかずとは上手く言ったものだ。


 鼻にくる車の排気ガスの臭いや肌を覆うような梅雨の湿気、踏みしめる未舗装の砂利道はどれもこれもがホンモノだった。


「取り敢えず、しばらくは俺の事務所で寝泊まりしてくれ」


 探偵は古びた木造の事務所に私を招き入れると自分の手当てもほどほどに私にダブダブのTシャツと温かいココアを出してくれた。


「ったく、ありがとうの一つくらい言ったらどうなんだよ? 可愛げのないやつは社会では上司にいじり倒されるぞ」


 私の態度がそんなにも気に入らなかったのだろうか?


 探偵は大きな溜息を吐くと自分の傷の手当てを再開し始めた。


 そこから、私がこの探偵と過ごした時間は長いようであっという間だった。

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