終章、本日の天気は『晴のちシロ』♡
終章、本文(丸ごと全部)
終章、
「──ふ~ん、そんなことがねえ」
僕の長時間にわたる愛憎と
今僕の腕の中には、安らかに眠り続ける赤ん坊のようなひなちゃんの姿がある。
そう。あくまでも『ひなちゃん』であって、『
彼女たちは今やいったんリセットがかかった状態となり、
そこでしかたがないので、この場に唯一残っている話し相手に向かって、僕は念を押すように会話を始めた。
「だから彼女は昔のことを思い出す必要なんてないんです。むしろいっそのこと、すべてを忘れてしまえばいいんだ。なぜなら彼女が完全に壊れ
「へえー、ああ、そういうことだったの。いやあまさか、日向と噂の『
照れ隠しというかどちらかと言うと後ろめたさからか、
しかし急に何かにひらめいたのか、ぱっと表情を明るくする。
「ということは、つまり君は実のところは『姉上殿』とではなく、今までずっと日向本人と
「……ええ」
まあ、あれが同棲と呼べるかどうかは別にしてね。
「考えてみればすごいことだね、それは。私としては限りなくうらやましい状況ではあるけれど、むしろ君にとっては『
図星だ。
「一緒に住んでいるからって、まさか寝込みを襲うわけにはいきませんからね。さっき話したアレやコレやのせいで『日向』お嬢様はすっかり根源的に、男性や『人間の
「しかし結局日向って、『ツンデレ』なのかい? それとも『ヤンデレ』なのかい? あの
何だそのにやけた表情は。気楽にうらやましがるんじゃねえ。少しはこっちの身にもなってみろ。
「そんなこと、僕にとってはどうでもいいことなんですよ。たとえお嬢様が『ツンデレ』であろうが『ヤンデレ』であろうが本当はただの『大嘘つき』であろうが、彼女が間違いなく僕の
「それで君は永遠の『お
「いえいえ、これも僕の望んだ結果ですから」
「もしかして君って、
「……いくら何でも怒りますよ」
人間は自分の本質をつかれた時こそ、最も怒りを感じる──というのが真理かどうかはともかく、なぜか発言者である王子様のほうが、
「怒ると言えば、なぜ君は私を処分しようとはしないのかい? それこそが
まあ、そりゃ気にするだろうな。僕が怒りをぶつけるどころか、天堂家門外不出の巫女姫の秘密や、自分の大切なお嬢様の個人的事情をべらべらしゃべりだすんだから。『
「あなたに対する愛ゆえに──と言いたいところですが、普通に
「損得勘定?」
「ええ。お嬢様が学園生活等において『日向』であり続ける上では、『友人』というファクターは何よりも必要不可欠なものと言えるのです。しかし性格がこの上もなく
「……人のことを、
「いえいえ。昼間学園内でのお嬢様は、巫女姫というよりはむしろ天堂本家の次期当主と
「それはそれは、お眼鏡にかなって光栄です」
「というか、やっかいで手ごわい敵は、味方に取り込んだほうが早いというだけのことですよ。これだけの秘密を明かしたのです。もう裏切らせるわけにはいきませんからね」
「怖いね。つまり私もこれからは、天堂家の守り役殿の監視下に置かれるというわけか」
むしろ面白がっているかのように、目を輝かせている王子様。あ~あ、これ以上面倒なお荷物を増やして、どうしろって言うんだ。
「でも、今さら日向があんなひどいことをした私を、引き続き友人認定してくれるものかねえ」
「その点に関しては大丈夫です。先ほどの僕の『ひなちゃん』という言葉を聞いて、彼女は今いったん『リセット』がかかった状態となっているのです。今度目覚める時はまた新たなる『日向』と『月世』としてまっさらな状態で再起動し、基本的な設定は押さえつつも新たな人間関係や生活行動を再構築するわけであり、副会長のことは『少し油断ならないかもしれない』という属性が増えるぐらいで、以前とほぼ同様の友好関係を十分に築けるかと思いますよ」
「そうだと、いいけどねえ……」
と、
「副会長殿にとっても、『原状回復』という線がもっとも好ましいはずですよ。むりやり壊そうとしたところで、多重人格者のお嬢様にとっては無駄なことなんです。
「でも君としたら、日向が普通の女子高生のままでは、本来の『遠見の巫女の守り役』としての役目が果たせないのではないのかい?」
「僕としてはあくまでも天堂家の『守り役』ではなく、お嬢様の『
「わかった。これまで通り日向とは『普通の友人』を続けよう。この立ち位置も私にとっては、まんざら悪いものでもないしね」
それからなぜだか僕のほうへとニヤリとほくそ笑み、
「しかし何だかこうして話をしていると、君ってすごい善人のように思えてくるから不思議だよね」
思わず吹き出しそうになった。
「──どこがですか。すべて
そして二人とも、僕が
「いやいや。なんか私もだんだんと、君のことが好きなってしまいそうだよ」
げっ。やっぱり『
「……それはどうも。僕もこうして腹を割って話しているうちに、どことなく副会長のことに興味がわいてきましたよ」
「
「あくまで興味です!」
「だめかい? それならせめて私らも、『友人』ということで」
「普通の『先輩と後輩』で十分です」
「ガードが
「一応『守り役』として言わせていただけるのなら、あなたはあまり
「お
「誉めてません!」
まったく、これから先のことを考えると、究極の頭痛薬開発に先行投資したくなるよ。
しかし、お嬢様のことを思えば、これほど望ましい状況もないのもまた事実であった。
こういった刺激のある人物が
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──
すべてが終わってから数日後の早朝。僕の
苦心
「ほらほらどうした。今日もいい天気じゃぞ」
年頃のお嬢様は何の遠慮もなく、同年代の男子の部屋にずかずかと乗り込んできて、情け容赦なくカーテンを引き開く。
「うっ」
降りそそぐ鮮烈な
「て言うか、
「おう、そうじゃ。見ればわかるだろう」
窓際に立ち、まるで後光を放つ大仏様のように胸を張る少女。いや、まぶし過ぎて目が痛いんですけど。
なぜだか得意げなしたり顔。しかもいつもの
しかしどういうことだ、これは。あの万年低血圧少女の月世様が僕より早起きをして、あまつさえ僕を起こしに来ただと?
「何をそんなに驚いた顔をしておる。
──朝飯?
その単語を聞いたとたん、僕は
しかし時既に遅く、戦況は壊滅的であった。
ガラス製のテーブルの上を我が物顔で占領している、朝食用には多すぎる食器群。表面張力が一歩
さて中身はというと…………すみません。僕は前衛芸術には明るくないので、これ以上の情景描写は遠慮させていただきます。
しかし、『
なのにこれはいったいどうしたことであろうか。もう既に二人が同一人物であることはすべてつまびらかにされているのだ、わざとフェイクやブラフを重ねて真相をごまかす演出上の必要性はないはずである。単に僕はいじめられているのだろうか?
「さあ、遠慮のう
断る理由なぞどこにもなかった。拒否権がないとも言う。
僕は覚悟を決めて手を合わせ心の中で
考えてみればこのままこの状況が続けば、僕は彼女の本来の姿である日向お嬢様と
「おお、
身から出た
……ふむ。想像してみると、それはそれで面白いかもしれないぞ。
とにかく明日からはさらに早起きをして、巫女姫様の破壊工作を未然に防ぐことが必要だ。
自分の
むしろ月世様は普通の家庭人としてではなく、もっと世の常識というものに変革をもたらし得る(文字通り天才と何とかとの紙一重の)アーティストとしての才能を
そんなこんなで大騒ぎ(というか
「……行ってきます」
何だかこそばゆい気持ちになり、わざと後ろも振り返らずぼそっとそっけない
「あ、待つのじゃ。今日は
「かさ?」
「何を
……たしかに。気象庁ですら的中率三割を
僕はそれ以上異論をはさむことなく、
満足げにうなずく巫女姫様。守り役としては合格だったらしい。
天気予報だけではない。このごろ『月世様』が本人の自覚のあるなしにかかわらず、
『月世』になりきり続けているうちに、本来の『
まあそんなこと、僕にとってはどうでもいいんだけどね。
このことは本家のほうにも報告せずに、すべて
あくまで大切なのは、この何気ない日常を淡々と守っていくこと、ただそれだけなのさ。
がんばり屋で
自己満足に
「今日は『シロ』じゃぞ」
は、何が。シロって、
「おぬし前に
ツンデレお嬢様とヤンデレ巫女様と犬の僕 881374 @881374
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