第五章、その五
僕はあれ以来、本家に行くのを
もちろん、いろいろ気になることはあったが、あそこには『あの瞳』が、僕のことを待ちかまえているのだから。
怒ったように
しかし、
しかたない。できるだけ早く用事を済ませて、さっさと帰るとするか。
──『彼女』と出会ってしまう、その前に。
長く曲がりくねった迷路のような渡り廊下をもんもんと悩みながら歩いていたまさにその時、僕の胸元に突然何かが勢いよくぶつかってきた。
「
あまりの衝撃に呼吸と心臓が止まりかけ、とっさに怒鳴りつけようと口を開きかけたとたん──
「
その質問の内容は
まさか「──つきちゃん⁉」
それは間違いなく、もはやこの世にはいないはずの少女の名前であった。
しかしその時の僕は、今まで
その少女は、僕の立場を忘れた
……まるで生まれてからこの方、『人形』のような無表情などしたことのないように。
「うん、そうじゃそうじゃ。
そう言って僕の腕を強引にとり、屋敷の奥へと引っ張っていく少女。
あまりの展開に困惑しなすがままの僕にひきかえ、彼女の足取りはあくまでも
──まさにたった今、神に自分の
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
それから僕らは彼女──『
もっと
なのにこれはどうしたことであろうか。やはりあの事故で死んだのは『日向』であり、この目の前の少女は『月世』自身なのであろうか。
いや、そんなことはない。
それでも目の前に見えるのは、あくまでも何の
──いや。もしかして、これって。
確証は何も無い。ふむ、ここはひとつ試してみるか。
「つきちゃんさあ」
「うん?」
無邪気に楽観的に首をかしげる少女。
「
次の瞬間、猛烈に吹きつけてきた突風に、その身を激しく
舞い上がる
「ひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなたひなた」
表情をまったく失った人形のような唇から
「おらぬ、日向なぞおらぬ。そんな女なぞけして存在してはならぬのじゃ! あやつのせいでお父さまもお母さまも死んでしもうた。悪いのはすべて『日向』なのだ。『月世』は──
「わかった、わかったから、もう
無防備に突風にあおられ続けるそのか
「君はつきちゃんだ。間違いない。僕が保証するよ!」
「うしおちゃん?」
ようやく反応を見せる、あどけない瞳。
「僕が君たちのことを見間違えたことが、あったかい?」
「……ない」
「だったら、君は間違いなくつきちゃんだ。そうだろう?」
「そうじゃ、
母親に
いつの間にか、風は
「──さすがは
そして部屋の入口には、小柄で上品な老婦人がたたずんでいた。
僕はすかさず
「これはご当主様。本日もご機嫌
やばい。元々ここへは父親の
いったいどんなお仕置きが。やはり古典的に蔵の中でつるし上げ? それとも地下牢で
「ほほほ。
へ?
「鏡池
「なっ……うわっ!」
「うれしい。これで我らはいつでも一緒だな!」
しまった。元々これが、今回僕を本家に呼び寄せた理由だったんだ。
なかなか守り役
「うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡うしおちゃん♡」
「……つきちゃんさあ」
『♡マーク』使いすぎ。
「──守り役殿」
「は、はい!」
って、それは僕のことですか?
「これからは仮にも自分の
それでは、ご主人様が『アグネス』や『テッド』や『おさむ』な方々の場合は、どうするのでしょうか?
「月世もですよ。たとえ
「うむ、わかった」
僕の背中に回していた腕をほどき、半歩さがってにっこりと微笑む少女。
「これからよろしくな、『潮』!」
その瞬間、僕の背中に電流が走った。昨日までただの
「ははー。こちらこそよろしくお願いいたします、月世様」
あれ?
「うむ、よしなに」
あれえ?
いや、根っからの『犬根性』とか、そんなんじゃないですよ。けっして。
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