第三章、その二

「かっわいーねえ、思春期の男の子は♡」

ゆうあなた、いい加減にしなさいよ。仮にもここは生徒会室の中なのよ!」

「おや、やきもちかい?」

「まさかっ、冗談はよしてよ!」

「ふ~ん。どっちに対するやきもちか非常に気になるところだけど、まあいいや。つまりそういうことなら、私とうしお君がどうなろうと、なたは構わないわけだね」

「当然でしょ! 前々から言っているけど、潮は私にとって単なる分家のあとりにすぎないの。ただのぼくよ。犬なのよ。つきあいたかったら、ご自由にどうぞ!」

「へ~え、いいのお?」

「ごずいに。だけど信じられないわね、夕樹が男の子なんかに興味を示すなんて」

「おいおい、これでも私だって女の子なんだよ」

「そんなこと言ってるんじゃなくて、夕樹ともあろう者が男なんて『下等動物』を相手にするなんて、思ってもみなかっただけよ」

「……すっごい言われようだな。何だか男がかわいそうになってきたよ。しかし日向ったら、そんなに男性のことがきらいなのかね」

「きらいよ。男なんて人間じゃないわ、『ケダモノ』よ!」

「ふ~ん、『ケダモノ』ねえ」

「な、何よ、急に近づいてきて」

「いやね、もったいないと思ってさ」

「もったいないって、何が」

「せっかくこんなさらさらきゅ~てくるな、きれいな髪をしているのにねえ」

「ちょ、ちょっと、さわらないでよ!」

「ぷりていびゅーてほーなお顔はもちろん、スタイルもほっそりきゅーとなないすばでーだし、おまけにお肌なんてこんなに白くてスベスベでプニプニなのにね~」

「こらっ、人のほっぺたで遊ばないでよ!」

「いやあほんと、うらやましいかぎりだよ。男どもというか、『てんどう一族』のみなさんが」

「……天堂一族?」

「おやあ、どうしたのお。急に元気がなくなったけど。顔色もなんだか悪いよお」

「天堂一族って、それ、どういう意味?」

「あれえ、私単に一般的なことを言っただけなんだけどなあ。だって親戚の中にこんなかわいい子がいたら、男としては何だかうれしいじゃん。盆暮れに親類縁者で集まるのが楽しみになったりしてね」

「え、ああ、それもそうね。──あ、いや。そんなことはないわ、私ごときで」

「おほほほほ、ご謙遜けんそんを。それとも何? 私が知っているとでも思ったの。天堂本家に生まれた双子の姉妹がたどる、その過酷な人生のすべてを」

「──‼」

「ああ、ほんと、日向っていい匂いがするねえ。私が男だったら、天堂の奴らなんかにけがされる前に、この場で押し倒して自分のものにするのになあ」

「……どこまで、知っているの?」


「う~ん、そうねえ。天堂本家の双子の姉妹は、巫女みこ姫様だ次期当主様だともてはやされているけど、本当に大切なのは巫女のほうだけで、当主になる娘のほうは一族の男たちにとっては、ただの『こうしゅう便所べんじょ』にすぎないということぐらいかな?」


「      」


「あれ、どうしたの日向。口を開けたまま動かなくなって。故障?」


「            」


「ちょっと、日向、聞こえてる?」


「                       」


「まあいいや、話を続けるよ。これは女の子を犠牲にすることで栄えてきた、ある狂った一族の物語なんだ。事実かフィクションかはご想像にお任せするね」


「                                  」


「その女系一族の本家に数十年ごとにさずかる双子の姉妹は、必ず一方は一族のかなめである『とお巫女みこ』となり、もう一方は将来の当主となるさだめが課されているんだ。巫女のほうはじゅんけつ身体からだのまま一生独身で過ごすわけだけど、当主のほうは当然出産して子孫を残していかねばならない。しかし、これにも面白いジンクスがあるらしくてね。もし仮に当主に子供ができるとしたらその場合は、なぜだか自分たちと同じように双子の姉妹だけなんだそうだ」


「                                  」


「もちろん、二世代続いて双子の姉妹が生まれることはほとんどなく、結局一族の中から養子を立てて、本家を存続させていくことになるんだけど、もし奇跡的に双子がさずかれば、本家直系の血筋をやすことなく新たに巫女が手に入るわけであり、何とかしようと思うのが人情じゃない。だったら、少しでも巫女を生む可能性のある母体があるなら、それを『フル活用』しようとするのも当然だよね」


「                                  」


「そこで、一族の男性諸君のご登場ってわけ。巫女の血を──かつての『竜神の落とし子』の血を引いているのは、何も女だけではなく、もちろん男たちも同様なの。つまり彼らと手当たり次第にまじわれば、それだけ巫女が誕生する可能性も高まるわけだ」


「                                  」


「何せ、『双子の姉妹』以外は絶対にさずからないんだから、それこそ妊娠するまで『試して』みればいいわけ。一族の男たちのよりどりみどりの『タネ』をね」


「                               うそよ」


「要するに、この一族の双子の片割れの当主は、妊娠の可能性がなくなるまで、すなわち四、五十歳すぎの更年こうねんを迎えるまで、無数の男たちをその身に受け入れなければならないの」


「                            うそようそよ」


「それでせめて子供がさずかればまだましなんだけど、結局ハズレだった場合、血のつながらない分家の養子があといで、自分は当主をお払い箱になって、ひとりさびしく死んでいくわけ」


「                      うそようそようそようそよ」


「はたして彼女の人生って何だったんだろうね。名門旧家のご当主様というのもただの名目めいもくで、実は本家公認の男性専用『性欲処理マシーン』だったりして」


「          うそようそようそようそようそようそようそようそよ」


「ほんと、あわれな話だよ。同じ腹から同じDNAで生まれた双子の姉妹なのに、もう一人のほうは伝説の巫女姫様として一生純潔のままで、一族あげてあがめたてまつられるのにねえ」


「うそようそようそようそようそようそようそようそようそようそよ───!」


「本当にうらやましいかぎりだよ。この髪。このほほ。この唇。この胸」


「いやっ! やめて! さわらないで‼」


「この腰。この腹。このへそ。……そして、この××××」


「あうっ、んんっ!」


「いやあ、中学生のガキどもなんて、夏休み冬休みになるのが待ち遠しいだろうね。本家に行けばこんなきれいなお姉さんとできるんだ。わくわくして前の晩なんか眠れなくて、朝まで『大写生大会』だったりして。美術部にスカウトしたいぐらいだよ」


「……やめて、ゆびが、あうっ!」


「その当主の『おつとめ』ってのが始まるのは、日向が十八になってからだっけ。来年度高校を卒業してから? ま、がんばってね。差し入れにでもおうかがいするよ」


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

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