3.陽から陰へ
はじめてのせいしんか! を書こうと思っていたけど気が変わったので別の話をしようと思います。あれれ~? おかしいなあ、オトモダチが減っていくよ? の回です。
今や完全なる陰の者である私ですが、小学生時代は陽の者でした。
クラス委員には何度も立候補したし、学級係(学級会の司会進行をやる係)もやっていたし、学芸会では劇に出るのが好きで主役をやったこともありました。クラスのレクレーションでも劇をやったり、その台本を書いたり、とにかく目立つのが好きで、男子とのお遊び的な口喧嘩も好きな気の強い女の子だったと思います。
外で遊ぶのが好きで、友達とあちこちの公園に行っては水遊びをしたり、遊具を乗り回してゲラゲラ笑ったり、冬はそこらじゅうの雪山でソリや尻すべり、転げ回って遊びました。ゴム飛びも一輪車も鬼ごっこもかくれんぼもだるまさんがころんだも、全力で遊んだ。私は小さい頃集合住宅に住んでいて、一歩外に出ればどこかの子供に出会うという状況だったので、誰かとの約束がなくてもそこら辺を歩いたり集合住宅内の公園へ行けば必ず誰かしら知っている子はいて、そこに飛び込んでいっては一緒に遊びました。年上も年下も関係なかった。名前は知らないけどあだ名は知ってる子なんかザラにいたし、そもそも、ひとりで遊ぶのも苦にならないタイプでもありました。
その一方、室内遊びも好きで、友達とただ黙々と漫画を読んだりゲームをしたり、これがいちばん好きな遊びだったのですが手持ちの小物や消しゴム、ハンカチなどで部屋を作ったりするのです。お気に入りのハンカチを絨毯に見立てて、その上に家具に見立てた小物や消しゴムを置いていくだけのごっこ遊びですが楽しかった。
ある友達とは一緒に漫画を描いていて、最初は私もその子も自分を美化して描く少女漫画なのですが、そのうちお互いを少しずつ下げるように妖怪化させていって、最終的にはイケメンそっちのけで妖怪と化した私とその子が台風みたいに何もかもめちゃくちゃにするというお決まりの流れでゲラゲラゲラゲラ笑っていました。本当に楽しかった。
集合住宅には赤ちゃんの頃から仲良くしていた子も数人いたし、みんな好きだったし、楽しくて何も怖いことなんてなかった。
小学校低学年のとき、いじめに合いました。7歳くらいだったかと思います。この世に生を受けてたった7年の子が初めて人間の悪意という存在を知り、それをぶつけられた瞬間でした。すごく混乱したのを覚えています。それまでの私の世界にはなかったものだった。起こりえないことだった。でも確かに私は、私が悲しくなることを、つらくなることを悪意を持ってされていると認識できていました。どんなことをされたかは今ではいくらか忘れてしまっていますが、生まれて初めて悪意をぶつけられたという衝撃は決して忘れられないと思います。
高学年になってからは仲良くしていたグループの友達に突然無視されるということもありましたが、幸い「私たちと遊ぼうよ」と誘ってくれた子がいたことと、友達が無視する間際に渡してきた私の嫌なところが書いてある手紙、その内容を素直に受け取って反省できたことが私自身を卑屈者にさせないでくれたと思います。それら一連の出来事で、私は理不尽というものを知ったし、そのことで自分のために怒ることもできました。今思い返しても、私は立派だったんじゃないかと感じます。
なんだかんだとありながら、小学生までは私は明るく真っ直ぐで、友達もたくさんいました。
なんだかいろいろおかしくなってしまったのは中学生のときです。
慣れない環境にずいぶん緊張しましたが、滑り出しは順調だったと思います。テストの点数で成績がつくというのも新鮮で、正直テスト勉強はすごく楽しかった。私は中学生になって、これからいろんなことを自分で見て選んで決めていけるんだ、という目の前が明るく開けていく感覚がしていました。反抗期というより自立心の芽生えだったと思います。私は私という存在が嬉しかった。不思議な感覚ですが、そんな感じがしていて、まさに自己が確立されていくところだったんじゃないでしょうか。アイデンティティ。
だから自分のことは自分で決めて自分でやりたかった。親に指図されることが嫌だとか苛ついていたということはなかったです。ただとにかく自分でやりたかった。目の前の開けた道を自分の足で歩きたかった。
でもそれが母にはとんでもない生意気と映ったのかもしれません。
自分が何を言ったのか不思議と全く覚えていません。けれど母は激怒していました。これまでに見たこともないほど怒っていた。そして私を怒鳴りつけました。
「中学生になったからって、あんたが偉くなったわけじゃないんだからね!」
ショックでした。何を言われているのか全然、全くわからなかった。なのにとにかくものすごく怒られていることだけはわかる。自分の何が悪くて母を怒らせたのか一切わからない。戸惑ったし怖かった。何がなんだかわからなくなった。
昔、小さな頃、遠い親戚に中学生の子がいました。足を組んで座りコーヒーを注文するような子で、私には大人っぽく見えていましたし、母がその子に対して「さすが中学生は大人っぽいね」と言ったのがとてつもなく印象的でした。今思えばよその子だから当然なんですが、母はその子を私のような子供を扱うのとは全然違って、尊重しているように見えました。だから私は、中学生になったら自分もこんなふうになるんだと感じて、無意識のうちに中学生は大人として扱ってもらえると思い込んでいたところがあったかもしれません。
でもそれ以来私は、手足ひとつ動かすのにもひどく緊張して怯えるようになりました。自分の意識もしていないような行動や言葉が、どんな間違いで、誰をどれだけ怒らせるか、もしくは馬鹿にされ嘲笑われるかわからなくなったからです。だから目立つような行動は控えるようになりました。人と目を合わせるのも怖くなった。自分を見られたくなくなりました。目の前に開けていた道は、目の前の一瞬一瞬を乗り越えることで精一杯になった私を置いて、消え去っていきました。
けれど中学生が自分の全てを諦められるわけもなく、一挙手一投足に気を使い、どんな行動までが許されてどこからが許されないのか周りのみんなを注意深く観察しました。目立ちたがりで明るい私が全て消えたわけではなく、そうでありたいと思っていたし、そうでないとまた誰のどんな気に触るかわからないし、馬鹿にされるのも怖かった。必死でそれまでの陽の者やどりちゃんを細心の注意を払って取り繕いました。
中学は小学校からほぼ全員が持ち上がりで、知り合いだらけだったので友達は変わらずいたし、新しい友達もできたし、揉め事もありましたが、なんとかうまくやっていたと思います。
特にEちゃんという子とは仲良くなりました。気が合うというか、私が初めて出会うタイプのちょっと変わった女の子で、一緒にいると楽しかったし、Eちゃんもなんだか私のことがすごく好きなようでした。その子の前では自分の言動にあまり怯えずに済みました。Eちゃんが変わった子だったので私が多少おかしな言動を取ってしまっても相殺されるような気がしたし、あんまり変だとEちゃんは遠慮なく普通に笑ってくれました。なにそれ、やどりちゃんうけるー。キャッキャと笑って、私を模したキャラクターの絵を描いて手紙にして渡してくれたりしました。悪意が一切ないのが伝わって、安心できました。
それでも、最終的にはEちゃんと仲違いをして卒業を迎えました。
いつも一緒にいたEちゃん。トイレも移動教室も一緒。Eちゃんがその頃付き合っていた男の子に別れ話をしたいけど不安だから近くで待っていてとお願いされて、私はただEちゃんを想って待ちました。Eちゃんが好きでした。
きっかけが何だったのか今となってはもう想像するよりないのですが、いつの間にか少しずつEちゃんが私のそばにいない時間が増えました。私はその頃、Eちゃんの元彼である男の子を好きになっていて、でもEちゃんに伝えたら気を使わせるんじゃないかと思って黙っていました。それを誰か別の子から聞かされて、Eちゃんは私に話してもらえなかったことを悲しく感じたのかもしれません。良い方向に想像するなら、こういう感じなのかなと私は思っています。
そうやってEちゃんは少しずつ私から離れて、避けるように別の子たちのグループへ入っていきました。理由は本当にわからない。元彼の件くらいしか、私には思い当たらない。でもそのときにはEちゃんはその男の子ととっくに別れていたし、それが問題の核心とも思いにくい。
高校は別々になりましたが、偶然再会したときに声をかけても避けられたので普通に嫌われているのだと思います。でも理由が私には全然わからなくて、きっとこういうところが駄目なんでしょうね。やっぱり意識もしていないような言動で誰かを怒らせたり傷つけたりするパワーを持っているんです。無神経とも言う。
とにかくEちゃんがいなくなった私には、親友と呼んでも差し支えない存在がいなくなり、なんとなく所在なく過ごしました。話をしたりときどき遊んだりする友達はいたので、教室でぼっちになるとか全体に無視をされているということではなく、ただただ私からEちゃんがいなくなってしまったのでした。
当然、好きな男の子には告白も出来ないまま、彼が別の女の子と付き合い始めて失恋と相成りました。だよね!
今回はオトモダチが減る小中学生編ということで、この辺で終わりにします。
次は高校・それ以降編を書こうと思いますが、また気が変わるかもしれません。
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