2.>>突然の死<<

 私は自分を病気だと思っていませんでした。

 病気かもしれないと思うこともありましたがそれに実感は伴っていなかったし、ただただ私の頭がおかしくて社会不適合な性格と頭と精神をしているのだと思っていました。


 今から2年前の冬のことです。

 それは寝る前に歯を磨いていたときのことでした。突然、何の前触れもなく、尋常ではない恐怖が私を襲いました。具体的に何かが怖いというわけではなく、ただとにかく心臓がばくばくして、呼吸もうまく出来ず、恐怖のあまり泣きながら日記に「どうしよう死んだほうがいいかなどうやって死んだらいいんだろう」と書き殴ったりしていました。

 それまでは部屋が薄暗くないと落ち着かなかったのですが、そのときは部屋が薄暗いという慣れ親しんだ状況さえ恐ろしくて恐ろしくてたまらず、数年まともにつけたことのなかった部屋の電気をつけました。それまではデスクライトだけで夜を過ごしていたのです。

 当然眠ることもできない。電気をつけて少しだけ恐怖が和らぎましたが、さすがに付けっぱなしで寝るのは電気代的にもためらわれて、結局デスクライトに切り替えて布団に潜りました。動悸もそれに伴う呼吸の乱れもおさまらない。何というわけでもなく、生きていることが恐ろしい。死を感じました。死んだほうがいいと思いながら、これは死ぬと恐れてもいたのです。謎の恐怖に苛まれて眠れない私をともかく一時の睡眠にいざなってくれたのは、あんさんぶるスターズというアプリに登場するアイドルユニットたちのユニットソングでした。普段から何かを聴きながらでないと落ち着いて眠れない私を、そのとき唯一アイドルたちが救ってくれたのを私は忘れません。ありがとうあんさんぶるスターズ。

 実は、以前にこれと似た症状を起こしていたことがありました。おそらく熱中症だと思います。強い動悸と呼吸の乱れ、血の気の下がる感じ、吐き気、死ぬかもしれないという恐怖感。今回との違いは身体的な不調のほうが大きかったという部分です。体調がひどいから死ぬかもしれない、という一応理論的な恐怖ではあったと思います。そのときはポカリスエット500mlを3本ほど飲むことで回復しました。なのでそれ以来、私はポカリのことを命の水と呼んでいます。

 そんな経験があったので、今回もポカリを飲めば大丈夫だろうと思っていました。次の日も、その次の日もポカリを飲み続けていましたが回復するどころか、動悸と不安感で胸が苦しくて食べ物がほとんど喉を通りませんでした。

 食事を残すと母が機嫌を悪くするので、普段から多少無理にでも完食するのですが、このときは本当にまったく食べられなかった。母がスープを作ってくれてもほとんど喉を通らず、そんなのが数日続きました。

 さすがの私もこれはおかしいと思いました。常に恐怖感や不安感で動悸が止まず、呼吸も荒い。食事もまともに摂れない。ポカリをいくら飲んでもよくならない。

 病院嫌いの私なのですが、さすがにそのときは母の「病院行ったら?」の言葉に頷かざるを得ませんでした。命の水ではどうにもならないなんて、などとショックを受ける私。

 ともかくよくわからないまま、近所の内科へ駆け込みました。まさかあんなことになるとは思ってもいなかったし冬のことだったので、もう本当に着の身着のまま、すっぴん全身大自然という感じ。

 私は自分のことをくちで説明するというのが非常に苦手で、だから病院嫌いというのもあるのですが、今回はわかりやすい症状があったのでそれを何とかお医者さんに伝えると、まず不整脈か甲状腺の異常を疑われました。なので検査をすることになります。まあ、そりゃあそうですよね。でも私は全然そんなことに思いが至っていなかったからぶっちゃけ無駄毛を生やし放題だったわけです。私の無駄毛は無駄を極め尽くしてくるので非常に、非常に剛毛で、特に足首あたりなんて男性顔負けレベルなんですが、心電図とか取るのに手首足首に大きなクリップのようなものを装着する必要があったわけですね……。腕まくりと裾まくりをしてくださいと言われる地獄。あと当然胸元にペタっとしたやつを張るので服をべろっと首元まで捲り上げるわけです。なんか腹毛とか生えてるし……足首は剛毛地帯だし……このときこそ死にたかった……看護師の方々にも謝罪を申し上げたい……申し訳……ございませんでした……。

 そんな別次元で死を思いながら、尿検査、血液検査もやって、24時間心電図という小型の機械を体にくっつけている検査もやったのですが、結局これといった異常は見つからない、と言われました。

 一方私のほうは、そんなにしんどいならということで安定剤を処方してもらっていたのですが、これがまあてきめんに効いたのです。数日ぶりに動悸や息苦しさ、恐怖感から解放されて、私はぼんやりと思いました。ああ、私がおかしいのは体の方ではない、精神のほうなんだ。そのことを受け入れざるを得なかった。だって体に異常はない証拠が出ているうえに、安定剤で症状が治まるのだから。

 そんなわけで転科。精神科、心療内科、メンタルクリニック、いろんな場所がありますが、家から一番近いという理由で精神科を選びました。


 これが精神科通院のきっかけです。

 一応、病院に行けという母のすすめもありましたが、基本的に私はツイッターで泣き言を漏らしつつひとりでした。

 次ははじめての精神科について書きたいと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る