第二章 真実を探求する者 2

「ねぇ、ここから先は入ったら駄目な場所だよ」

「大丈夫だ。それに誰も居ない方がいいからな」


 放課後、俺と神崎は鞄を背負いながら学校の屋上に向かっていた。

 本来、屋上は立ち入り禁止であるが誰も居ないので内緒話や大事な話をする時はうってつけの場所だ。

 もちろんその内緒話や大事な話をするために使っている生徒もいっぱい居るのだが今の時間帯下校する生徒や部活をする生徒が多いので屋上で告白しようと思っているロマンチストと授業をサボった人以外は居ないはずだ。


「よし、ここを開ければ屋上だ」


 やっと屋上の扉の前でたどり着き俺はドアを開けようとする。

 すると俺が手で開ける前にドアが開く。


「あっ、光輝君」


 屋上の扉から出てきたのは片手にノートパソコンを持った霧崎 光輝だった。


「神崎 美鈴に天道寺 陽太か……」


 霧崎も俺と神崎に気付いたみたいでこちらを見る。


「お前、こんな所で何してたんだ?」

「授業をサボりながらパソコンを弄っていたらこんな時間になっていた」


 霧崎はノートパソコンを持ってない手で頭を掻きながら俺の質問を答える。


「またサボって……駄目だよ。授業はちゃんと受けないと」

「気が向いたら出るよ。それじゃ僕はこれで」


 神崎は授業の出席に対して注意をするが霧崎は気にせず去っていく。

 霧崎の奴また俺の方を見たような気がするんだが気のせいか?


「もう霧崎君は……」

「とりあえず神崎。屋上に行こうぜ」

「あ、うん。そうだね」


 霧崎の心配する神崎を連れて屋上のドアを開ける。


「誰も居ないみたいだね」

「そうだな」


 人が居ない事を確認すると俺は神崎の方を見る。

 神崎も俺が見てる事に気付いたのか俺の方を見る。


「じゃあ、話すよ。あの時の事を……」

「うん……」


※※※


「……という事があったんだ」

「あの場所でそんな事があったんだ……」


 俺は昨日の出来事を一つ一つ神崎に話した。

 あの家の中でグレンというドラゴンに出会った事。そのドラゴンが宇宙から来て仲間を探していて、ひょんなきっかけで俺のスマホの中に住む事になった事。噂の恐竜があの化け物でそのドラゴンの仲間だった事。謎の電話があって変なアプリを勝手に入れられ、そのアプリを使って俺とドラゴンが融合した事。今、俺が全て知っている事を神崎に包み隠さず話した。

 神崎は最初、驚いていたが俺の話を聞く事に段々と真剣に聞くようになった。

 そして、神崎に俺の知っている事を全部話した所で今に至る。


「じゃあ、そろそろ紹介するよ」


 俺は鞄の中からスマホを取り出して画面を見せる。


「こいつがグレンだ」

『グレンだ。よろしくな』


 グレンは右手を振りながら神崎に挨拶をする。


「私は神崎 美鈴。グレン、よろしくね」

「それよりグレン。あのアプリについてなんか分かったか?」


 自己紹介が終わった所で俺はあのアプリについて何か分かった事があるかをグレンに聞いた。


『いや、全然だ。あのアプリはどういう仕組みで俺たちが融合できるのか分からない』

「そうか……あの電話の奴の手掛かりは?」

『そっちも駄目だ。ハッキングの形跡やあの時かかってきた番号ですら電話帳の履歴に残っていなかった』

「その電話の相手も凄い相手っぽいね……」


 神崎が言うようにあの電話の相手は相当のハッキングの持ち主だと思う。

 だが、それ以外は結局分からないままだ。


『そう言えば俺の仲間が暴れていた原因は多分だが分かった』

「本当か!?」


 グレンの言葉を聞いて俺は驚いた。

 何もわからずにいた状況にすこしでも分かった事があるのはありがたい事だ。


『あぁ、ヨウタが家で寝てる間にティラノから直接、聞いた』

「えっ、直接聞いたの?」

『あぁ、あいつは今、あのアプリの中に居るんだ。俺はその中に入って聞いたんだ』


 神崎の疑問に素直にグレンは答える。

 そういえば昨日、あの恐竜のデータをダウンロードしましたとか言ってたからな。


「んで、暴れていた原因は?」


 暴走の原因を早く知りたい俺はグレンに催促を促す。


『話を聞く限り、どうやら地球で作られたデータを食べた事が暴走の原因だと思う。あいつ、データを食べてからは何も覚えていないらしいからな』

「えっ? 何も覚えていなかったの? あんなに暴れていたのに?」

『あぁ、何にも覚えていなかった。これはあくまでも俺の仮説だが地球で作られたデータは俺たちにとって有害でそれを食べると意識をなくして暴走してしまうんじゃないかと思う』


 グレンは暴走の原因について俺と神崎に語った。


「ん? ちょっと待って? じゃあ、グレンは何で大丈夫なんだ? 確かお前が話せるようになったのはあのパソコンの中に書いてあった言語データを解読したからって言ってたよな?」

『恐らく俺は書いてあった言語データを食べずに解読したから大丈夫だったんだと思う。直接、言語データを食べていたらあいつと一緒の状態になっていたんだと思う』

「なるほどな」


 俺の疑問に対して分かりやすく説明をするグレン。

 要するにデータを解読するのは大丈夫だがデータを食べると暴走するのか……。


『それにこのデータの体になってからはお腹が空かなくなったんだ。まぁ、たまに食べ物が恋しくなる時はあるが我慢できるレベルだ。だが、あいつはそれに我慢できずに食べてしまったらしい』


 なるほど。データの体になったグレンには食事は必要ないのか。

 だから、あの古いパソコンの中に居ても腹が空かずに生きてられたんだ。

 だけど、我慢できるかできないかは個人差があるらしい。

 あの恐竜は我慢出来ずに食べてしまったんだな。

 その辺の欲求は実体があった時の名残だろうか……。


「じゃあ、何故暴走した奴はデータを食い続けるんだ? 食べる事を辞めればいい話だろう」

『恐らく地球のデータは中毒性があるんだ。食べないと居られなくなるんだと思う』

「まるで麻薬ね……」

『それに近いかもな』


 俺の質問に対して地球のデータは中毒性があるとグレンが語ると神崎が麻薬という単語を出す。

だが、グレンは神崎の言葉を否定しなかった。

 そして、グレンの話は続く。


『そして、地球のデータを食べていた奴は段々とエネルギーが蓄積されていって自分の体が現実でも構築できるようになり実体化(リアライズ)したんだと思う』

「それは本当なのか?」

『これも俺の仮説だから分からない。これが俺の知っている情報とその情報から考えた仮説の全てだ』

「そうか、ありがとうグレン」

『いやどういたしまして』


 俺がお礼を言うとグレンは少しだけ顔が赤くなり照れ始めて頭の辺りを掻き始める。

 しかし、だいぶ情報が集まった。ほとんどがグレンの仮説だが情報が無いよりマシだ。


「ねぇ、グレン。質問いい?」


 神崎はグレンの話が終ってから真剣な表情で何かを考えた後、グレンに質問をしようとしている。


『ミスズ、何だ?』

「グレンは宇宙を彷徨いながら仲間を探していたんでしょ?」

『あぁ、そうだ』

「そして、グレンの仲間がこの地球に居たんでしょ?」

『あぁ』

「という事はまだこの地球にグレンの仲間が居るかもしれないって事?」

「何!? 神崎、どうゆう事だ!?」


 神崎の言った事に俺は驚きを隠せなかった。

 何せグレンの仲間がこの地球に居るかも知れないと言われたら驚かない方がおかしい。


「陽太君、私が昨日話した話覚えてる?」

「昨日の話ってあの流星群の話か?」

「そう。流星群が見えたあの日以来各地で変な現象が起き始めたって事」

「まさか……」

「そう。グレンの仲間が関係してると思うの」


 神崎はあの日の流星群とグレンの仲間が関係していると言う。


「いやまさかいくら何でも考えすぎだろ」

「けど、あの恐竜の影だってグレンの仲間だったのは事実だよ。もしかしたらあの流星群はグレンの仲間の光でその光が地球に落ちてきて各地で彷徨っている可能性があるよ」

「いや、けどな……」

『だけど、その可能性はある』

「グレン?」


 俺と神崎が口論をしているとグレンが口を挟む。


『確かにミスズが言ってる事に確証はない。だが、地球で流星群が見えた日以来各地で変な現象が起きているのは気になる』


 どうやらグレンは神崎が言ってた事に対して興味があるようだ。


「ねぇ、確かめてみようよ。この現象を全部」

「えっ?」


 神崎が突然とんでもない事を言い出す。

 俺は一瞬、神崎の言った事が理解出来なかった。


「私も手伝うから今起きている現象を調べようよ。そうすればグレンの仲間が見つかるかもしれないし」

「調べるってその現象を全部?」

「うん」

「神崎、それは無茶だ」

「無茶でもやろうよ。やらないよりはいいと思うよ」

「だがなぁ……」

『ヨウタ、俺からも頼む』

「グレン?」


 俺と神崎が口論しているとグレンが口を挟む。


『俺の仲間がこの地球上に居るんだったら俺は探したい。けど、俺はまだ動ける状態じゃない。だから頼む。一緒に探してほしい!』


 グレンはそう言いながら頭を下げる。

 どんなに小さな手掛かりでも可能性があるんだったらそこに行って仲間を探したい。

 グレンの頭を下げている姿からそう伝わってくる。

 ……全くどいつもこいつも無茶を言いやがって。

 ……あぁ、どうにでもなりやがれ!


「……ったよ」

『えっ?』

「分かったよ! こうなったらとことん付き合ってやる!」


 俺は勢いよくそう叫んだ。

 グレンは最初、状況を理解していなかったが段々と理解していくと嬉しそうにしていた。


『ヨウタありがとう! 俺、ヨウタが大好きだ!』

「あぁ、もう分かったから!」


 グレンの感謝の言葉を俺は軽くあしらう。

 しかし、昨日の今日で似たような状況になるとはな……。


「じゃあ、早速なんだけど……」


 神崎はそう言いながら鞄の中からスマホを取り出す。


「気になる事があるの」


 こうして俺は現象の原因と思われるグレンの仲間探しに協力する事になった。

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