第二章 真実を探求する者 1

『ヨ……タ……ろ』


 なんだ……。

 誰かが叫んでいる……。


『あ……だぞ……』


 だけど、眠いから聞かなくてもいいよな……。

 昨日の出来事で疲れがたまっているんだ……。


『しか……ない……あれを……うか……じか……をせっ……して……おん…うも……っくすに……』


 誰かが何かをやっているな……。

 まぁ、いいか……。

 何をやっていても俺には関係ないからな……。

 今はこの至福の一時を一分一秒でも味わいたいんだ……。

 そう考えていたその時……。


『————!』「!?」


 何か大きな音が部屋中に響き始めた。


「なななんだ!? 地震か!? 雷か!?」


 俺は慌てながらベットの中から起きるとすぐに音はやんだ。

 だが、耳の中はさっきの音のせいで痛む。


「いったい何が起きたんだ……」

『おはよう! ヨウタ!』


 テーブルの上にある充電中のスマホから昨日知り合ったばかりのドラゴンの声が聞こえる。

 その声を聞いて原因がすぐに分かった。


「グレン、さっきの音はお前の仕業か」


 俺はテーブルまで行くとスマホを充電器から抜き取りながらグレンに話しかける。


『ヨウタが起きないから俺が起こしたんだ』

「だからってあんな大きい音を出さなくていいだろ……」

『俺が何度呼んでも起きないヨウタが悪い。だから、嫌が……確実に起こすために昨日、このスマホに録音しといたティラノの叫び声をアラーム機能に設定したんだ。ちなみに音量はマックス』


 グレンの話を聞いた俺は呆れていた。

 昨日の恐竜の戦い最中にこのドラゴンはなんてものを録音しているんだ……。

 それにお前、さっき嫌がらせって言おうとしただろ。


(このドラゴンをスマホの中に居させるのは間違いだったのかな……)


 俺はスマホの中に居るグレンを見てそう思い始めていた。

 あの後、俺は神崎の質問攻めをはぐらかしながら家へと帰った。

 家まで送っていかなかった事に心苦しさはあったが間違ってグレンの事を話してしまったらまた色々と面倒だったから仕方ないと思う事にした。

 ……そう、仕方なかったんだ。

 二階建ての一軒家である我が家の前までたどり着くとグレンに周りに俺以外の人が居る時は何も話さないように注意した。

 グレンも自分の立場が分かっているようですんなりと了承してくれた。

 注意を促した所で俺は家の中に入ると家族が自分のボロボロな姿を見て驚いていた。

 俺は階段から転んだといういい加減な嘘をついて家族を宥めた。

 家族に嘘をつくのはちょっと心苦しかったが本当の事を言って巻き込むわけにはいかなかった。

 家族はその後俺の言った事を信じ傷の手当てをしてくれた。

 それからはいつも通り接してくれた。

 俺も俺でいつも通りに飯を食べたり風呂に入ってして過ごした。

 そして、二階の自分の部屋に戻ると今日出された高橋先生の課題を思い出してすぐにやり始めた。課題が終わる頃にはもう体力の限界だった。

 星空を見ながらモンスターの事やらあのアプリの事を話したかったグレンに休むように言われて、俺は素直に指示に従いスマホの充電器に繋いだ後俺はそのままベットで寝てしまった。

 これが昨日の出来事である。


(しっかし、グレンの奴。もうスマホの機能を使いこなしているな……)

「陽ちゃん! 朝ごはん、出来てるよ!」


 俺がグレンの行動に少しだけ感心していると階段の方で母さんが俺を呼んでいた。

 ちなみに俺の家族は両親と俺と妹の四人家族で陽ちゃんっていうのは俺の呼び名。


「あぁ! 今行く!」


 俺は一旦、スマホをテーブルの上に置きクローゼットの方へと行く。

そして、クローゼットの中を開けて予備の制服を出す。

 昨日、来ていた制服はボロボロになっていたから後で母さんがクリーニングに出すらしい。


『ヨウタ、何処かに行くのか?』


 俺が制服に着替えている最中にグレンがそう質問してくる。


「学校だよ。学校」

『ガッコウ? どんな場所なんだ?』

「学校っていうのは簡単に言えば大勢の人が色んな事を学ぶ所だ」

『へぇ、そうなんだ』

「一応、もう一回言っとくが他の人が居る前ではあまり話さないようにしろよ」

『分かってる。バレたら色々と大変そうだからな。あっ、そう言えばさっきこの近くで一瞬、停電が起きたらしい』

「なんでそんな事知ってるんだ?」

「スマホに流れてくるにゅーすとかいう奴で知った」

「ふーん、そうなんだ」


 グレンと他愛のない話が終わったと同時に俺の着替えは終わった。


「んじゃ、飯食ってくる」


 俺はそう言いながら自分の部屋を出ていった。


※※※


 朝の廊下は一際騒がしい。

 先生に挨拶する者や友達同士で話している者。さっきグレンが言ってた停電のニュースで盛り上がっている者。

 そして……。


(おい、天道寺だ)

(あいつ、不良なのになんで朝早く来てんだ?)

(誰かをしばきに来たとかか?)

(目を合わせない方がいいな)


 俺の方を見て悪い噂をひそひそと話し始める生徒。

 俺はそんな事を気にせずに廊下を歩いていく。

 そして、自分の教室にたどり着き教室の戸を開ける。

 クラスメイト達はちらりと誰が入ってきたか確認にするとすぐに俺を見る事を辞めた。

 俺も教室の戸をすぐに閉め自分の席へと向かい着席し、鞄を机の横に下げる。


『ヨウタ、いつもこんななのか?』


 鞄の中にあるスマホからグレンの心配する声が聞こえてきた。

 だが、このぐらい声なら俺以外の周りの人には聞こえない。

 俺は鞄の中からスマホを取り出し、メモ帳の機能を使う。

 そして、


「気にするな。いつもの事だ」


 とメモ帳に打つ。

 メモ帳に書いてある事を見てもグレンの心配した顔は直らなかった。

 すると何かいち早く気が付いたグレンはスマホの画面外へと隠れる。

 その行動をみていた俺はどうしたんだという疑問が出ていた。

 しかし、俺のその疑問はすぐに解消される。


「おはよう陽太君」


 今一番俺の中で危険人物の神崎が挨拶をしながらこちらへと向かってくる。

 神崎は十中八九昨日の事を聞いてくるはずだ。

 しかも神崎には俺とグレンの融合した姿を見られている。

 だから、誤魔化すのは無理だ。

 昨日は話題を色々変えてはぐらかしたが今日もそれでうまくいくか分からない。

 とりあえずいつも通り挨拶して昨日の事を聞かれてもまたはぐらかすしか方法はない。


「おう、おはよう神崎」

「ねぇ、陽太君。昨日の事を教えてよ」


 早速聞いてきたか……。

 とりあえず俺はスマホを机の上に置き、話題を変えることにした。

 今度は春の星空について話そう。


「それより神崎、春の星空って——」

「あっ、話題変えるのはもう無しね」

「……」


 神崎に対策されていた。

 俺はそっと下を向く。

 それもそうだよな。昨日、散々話題変えたりしていれば誰だって対策するよな。


「ねぇ、陽太君……」


 俺が下を向きながら俯いてると神崎が俺を呼んだ。

 俺はそっと顔を上げて神崎の方を見ると真剣な顔でこちらを向いていた。


「陽太君が何かに巻き込みたくないって気持ちは昨日から話していて分かるよ。だけど、私だってあれを見たらあの場で何があったか知りたい。もし私が誘ってなかったら陽太君が巻き込まれなかったかも知れないし……。それにこのまま真実を知らないでいくのは嫌なの。だから、お願い。教えてよ。昨日、陽太君に何があったのかを」


 神崎はそう言った後、俺に頭を下げる。

 神崎は俺がグレンの事で巻き込みたくないという事は気付いていた。

 後、昨日俺を誘った事で少なからず責任を感じているようだ。

 だからこそ真実を知っておきたい。

 あの場に居た当事者だから。

 例え真実を知っても知らない事に対して後悔したくないために。

 神崎からそういう思いがビシビシと伝わってくる。

 ……全く神崎には敵わないな。


「分かった。俺の負けだ。放課後、本当の事を話すよ」

「陽太君!」


 本当の事を話すって聞いた瞬間、神崎は頭を上げて嬉しそうにしていた。


「但しこの事は誰にも話さないようにしてくれ。あまり周りを巻き込みたくないからな」

「うん、分かった。約束するよ」


 俺と神崎が約束した後、学校のチャイムが聞こえる。


「あっ、チャイムだ。じゃあ、陽太君放課後に教えてね」

「あぁ、分かった」


 神崎は手を振りながら自分の席へと戻っていく。


『ヨウタ、いいのか?』


 机の上に置いてあるスマホからグレンの声が聞こえてくる。

 まだ教室は騒がしいので周りにはグレンの声は聞こえてなかった。


(仕方ないさ。神崎だって当事者だ。知る権利ぐらいあると思う)


 俺も小声でグレンの質問に答える。


『そうか。なら俺は何も言わない』


 納得したのかグレンは本当に何も言わなくなった。

 その後、俺はスマホを鞄の中にしまい放課後に話す内容を考えながらいつも通り学校を過ごしていくのであった。

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