第一章 未知との遭遇 2

「失礼しました」


 放課後、俺は職員室に呼びだされて高橋先生の説教を耳にタコができるくらい聞かされた。

 それだけならまだいい。

 なんで、俺だけ明日の英語の授業までに課題を提出しないといけないんだ。

 確かに俺が授業中に寝ていたのが悪いんだが……。


「理不尽だ……」

「陽太君、何が理不尽なの?」


 俺が職員室の近くで課題に対して愚痴を言っていると自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 声が聞こえた方へと振り向いてみると俺のクラス委員長である神崎 美鈴(かんざき みすず)がそこに立っていた。

 神崎はどんな奴にも気さくに声をかけるいい奴だ。勿論、今絶賛不良扱いを受けている俺にも例外ではない。

 その性格のお陰で周りからも慕われていて、先生たちの信頼も厚くて俺とは真逆の存在だ。


「なんだ、神崎か。こんなところで何をしてるんだ?」

「物理の石田先生にこのプリントを職員室に持ってくるように言われて届けにきたんだ」


 神崎の手をよく見ると物理のプリントの束を持っていた。


「陽太君はさっきの英語の授業の奴?」

「あぁ、その通りだ。お陰で明日の英語の授業までに課題を提出しないといけなくなった」

「それはご愁傷様。というか陽太君が授業中に寝なければいい話だよ」

「なんでか自分の興味のない授業を受けているとねむくなるんだよな……というか神崎、俺の名前を呼ぶのはやめてくれて言ったはずだ」


 正直、下の名前で呼ばれるのはちょっと照れくさい。


「ん? 陽太君の名前は陽太君でしょ?」

「確かにそうだが……」

「じゃあ、何も問題ないね」


 ニコッと笑いながら神崎は俺の方を見た。

 神崎の行動に俺は少し照れて頬をかいた。

 神崎のこうゆう所は敵わないと思う。

 誰にでも隔てもなくこの笑顔を向ける。

 この笑顔を向けられた男子はよく勘違いして自分に好意があるとまで思ってしまう。

 おまけに神崎はスタイルがよく髪も男子に人気な黒髪のセミロング。たまにサイドテールにしてる時もある。

 俺は神崎がこうゆう性格なのは知っているが知らなかったら俺も絶賛、勘違い野郎の仲間入りをしていたな……。


「おい、説教はまだ終わってないぞ!」


 俺たちがくだらない会話をしていると職員室で先生の誰かが怒鳴った。

 怒鳴り声が響いた事に驚いた俺たちは職員室の方を見る。

 すると、黒髪でぼさぼさ頭の誰かが職員室から出てきた。


「あれ、霧崎 光輝(きりさき こうき)君」


 職員室から出てきたのは隣のクラスの霧崎 光輝だった。

 俺はあまり話した事はないがどんな事にもやる気を出さない事で有名な生徒だ。

 よく職員室で先生に説教されている。俺も職員室の常連だから人の事は言えないが……。

 後、色んな場所で自分のノートパソコンを弄っているのをよく見る。

 その時の霧崎の感じはいつもと違うように見える。


「……あぁ、神崎 美鈴に確か……天道寺 陽太だっけ?」


 霧崎はこちらに気付くとやる気のない返事をしてきた。


「どうしたの? まだ先生が怒っているみたいだけど……」

「説教の最中に抜けてきた」

「えっ、それは駄目だよ。また先生の説教を聞かされるよ」

「その時は逃げればいい話だよ。それじゃ僕はこれで」


 神崎は霧崎を心配そうに見ていたが霧崎は淡々と言葉を述べ、そのまま俺たちから離れていった。

 一瞬、俺の方を見た気がするが気のせいか……。


「光輝君、いつもあんな感じだから心配だよ……」


 霧崎が去った後も神崎は心配そうにしていた。


「神崎が気に病むことはじゃないだろ。あいつが勝手にしてるんだから」

「うん……」

「それよりも早くプリントを職員室に届けたらどうだ? そろそろ手が痛くなってきてるんじゃないか?」

「あっうん、そうだね。ありがとね、陽太君」


 神崎は俺に笑顔を見せた後、すぐ近くの職員室に入ろうとした。

 俺もその場はあとにしようとした。


「あっ、そうだ。陽太君」


 神崎が何かを思い出したかのように俺を呼んだ。


「神崎、どうした?」

「この後、暇?」

「暇だが……」


 英語の課題と星空を見る事以外この後の予定はないからな。


「じゃあ、私に付き合ってよ」

「えっ……?」


 今、俺に春が訪れを感じた気がした。季節的にも春だが……。


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