第一章 未知との遭遇 3

「はいはい、こんな事だという事は知ってましたよぉ……」


 学校指定のバックを右肩に担ぎながら俺は愚痴った。

 神崎に連れられてきたのが町外れの森の中。

 これがショッピングモールとかカフェだったら俺は絶賛、勘違い野郎の一員になっていたよ。

 けど、現実は違っていた。何せ今、居るのは何度も言うようだが町外れの森の中だからな。

 人気のない場所で告白というのも考えたが何もこんな遠い場所で告白をやる必要もない。


「神崎、俺たちは何処へと向かっているんだ?」


 痺れを切らした俺は神崎に何処に行くのかを尋ねた。

 神崎はいったん止まり俺の方に振り向いた。

 そして、左肩に担いでいる学校指定のバックから現代の万能機器(アイテム)であるスマートフォン。略してスマホを取り出し、


「ここだよ」


 と言ってスマホ画面を見せた。

 神崎のスマホ画面には様々な噂が乗っている事で話題の情報サイト『愚痴るんです』が表示されていた。

 だが、これを見ただけじゃ神崎の目的や今向かっている場所は分からない。


「えっと、神崎……これだけじゃ分からないんだが……」

「あのね、最近、流星群があったでしょ」

「あぁ、うん」


 俺が徹夜してみたあの日の流星群だな。

 けれど、その流星群がどう関係してるんだ?

 俺の疑問が解けないまま、神崎の話は続く。


「あの日を境に各地で変な現象が起き始めたっていう情報が入ってきてるの」

「変な現象?」

「うん。突然、店に置いてある電化製品がいきなり壊れたり、パソコンから獣みたい声が聞こえたりしてるんだって」

「……なんか嘘くさいな」

「私も最初は嘘だと思ったよ。けど、実際に聞いた人や見た人が多いんだって」

「へぇ……」

「それでその変な現象がここら辺でも起きたってこの『愚痴るんです』に書いてあったの。それがこれよ」


 神崎はスマホの操作をした後、再び俺に見せた。

 そこに書いてあった事はこうだった。

 突然、スマホの操作中に化け物みたいな叫び声が聞こえ、その時に表示データがまるで何かが食い散らかしたように虫食い状態になった。その後にスマホ画面に恐竜の影が逃げていくのを見たという。

 俺はその情報を見てもまだ嘘くさいと思っていた。

 確かに何人かが見たっていうのは気になるがこの情報をふざけて書いている可能性もある。

 仮にこれが本当だったとしてもこのスマホの件は新手のコンピュータウィルスの可能性だってある。


「そして、昨日、ここら辺で何かの叫ぶ声が聞こえてその直後に停電が起きたらしいの。その時に恐竜の影がこの森へと逃げていくのを見たっていう情報が手に入ったの」


 神崎は目を輝かせながら、楽しそうに俺に話してくる。

 あぁ、なるほど。もしかしてこれって……。


「神崎、まさかこの情報をここまで調べるために来たのか?」

「うん、そうだよ」


 キラキラした目で俺の質問に答えた神崎。

 それを聞いた俺は若干、いやかなり呆れていた。

 こんな情報のために町外れの森まで行かないだろ。

 そう言えば神崎はかなりの噂好きだったな。

 俺に声をかけてきた時も不良だという噂を聞いて声をかけてきたんだよな……。


「あの時の春の訪れは何だったのかな……」

「?」


 俺は神崎に聞こえないぐらいの声で愚痴を言うと神崎は不思議そうにこちらを見ていた。


「だけど、神崎。なんで俺と一緒に来たんだ?」


 呆れた状態になっていた俺は神崎に新たなる疑問を尋ねていた。

 これで誰でも良かったとか言われた暁には俺の心が折れる。


「それは陽太君だったらどんな事にも付き合ってくれそうだし、それに……」

「それに?」

「なんか危険なことがあっても陽太君なら助けてくれそうだしね。さぁ、行こう」

「えっ? ちょっ……」


 神崎はスマホをバックの中に戻し、俺の腕を引っ張って森の奥へと駆けていく。

 俺は少し体制を崩したがすぐに体制を整え神崎の走るスピードに合わせ駆けていく。

 駆けていく中で俺は神崎のさっき、言った事を思い出していた。

 神崎の強引な所は若干、苦手意識を芽生えたが俺を信頼してくれてる所は正直、嬉しかった。


(こんな不良扱いを受けてる俺でもあんなに信頼してくる人が居るんだな……)


 俺は若干、顔が緩みながら神崎と一緒に森の奥へと進んでいった。


 ※※※


 日が暮れ、辺りが暗くなっていく森。

 俺たちはスマホの機能であるライトを使いながら噂の恐竜を探していた。

 しかし、そろそろ引き上げ時かもしれない。

 これ以上暗くなったら俺たちが迷子になる可能性がある。

 今でも若干、帰れるか心配だがスマホの地図アプリを使えば大丈夫なはずだ。


「神崎、そろそろ引きあげ……」

「陽太君、あれ!」


 神崎は俺の声を遮りながら大声を出し、人指し指を森の奥へと指す。

 すぐさま俺は神崎の指した方向を見る。

 するとそこには家が一軒あった。


「こんな所に家が……誰か住んでいるのかな?」


 神崎は人が住んでいるのかという疑問を持つが俺が見た感じ、あの家は何年も使われていないと思う。


「怪しい家は見つけたけど、噂の恐竜は見つからなかったね……」


 神崎は若干、落ち込んでいるような素振りをしていたので俺は何か言って慰めようとしたその時だった。


『……け……て』


 何処からか掠れた声が聞こえてきた。

 俺は辺りをきょろきょろして探したが神崎以外誰も居なかった。


(気のせいか?)


 俺がそう思うと、


『……だれか……た……けてぇ……』


 また掠れた声が聞こえてきた。

 しかもこれは助けを呼んでいる。


「誰だ!? 何処にいる!?」


 俺は声をあげながら辺りを探す。

 神崎は俺の声に驚いたのか俺の方を見ている。


「陽太君、どうしたの? いきなり声をあげて……」

「声が聞こえたんだ」

「声?」

「神崎には聞こえなかったのか?」

「うん……何も聞こえなかった……」


 神崎にはあの掠れた声が聞こえなかったみたいだが、俺は探すのをやめなかった。

 すると俺は無意識に家の方を見た。


「あの家の中か!」

「あっ、陽太君!」


 俺は神崎を置いて家へと駆けていく。

 どうやら鍵はかかっていなかったらしく、そのまま俺はドアを開けて家の中へと入っていった。

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