第68話 略奪の悪魔22

  とある手記



 私が放った電脳怪異は思わぬ結果を導いてくれた。

 まず、懸念事項であった里見夏穂の中に溶けている怪異についてである。


 彼女に一定の危害を加えた際に発動する報復は、彼女が認識できなかった攻撃に対しては発動しないこと。これは私としても思わぬ発見であったと言わざるを得ない。彼が発見したこれと私の仮説を組み立てれば、里見夏穂の報復について対処できるはずだ。まだ調整は必要になってくるだろうが。


 そしてもう一つ。報復が発動した場合、それから逃げるのはほぼ不可能であること。


 本質がインターネット――月華学園が利用しているクラウド上にある電脳怪異が、とり憑いていた阿黒きらの肉体から離れてもなお報復から逃げられなかったことからそれは明らかと言える。


 彼女の中にいるあれは、よほど怪異を欲しているらしい。あれを形成するに至った彼女の過去を考えれば、それは妥当かもしれないが。


 電脳怪異のやることはこちらにもそれなりに有益であったため、ヤツの行いには見過ごしていたが――今回の一件はさすがに辟易せざるを得なかった。


 まさか高等部全域で混乱を引き起こすとは予想外である。春に起こった生徒の焼死事件以来だ。


 私も一応、この学園に勤めている身である。他の学校に比べれば雑事は少ないとはいえ――教職というのはそもそもやることが多い。しばらくは忙しくなるだろう。しっかりと休息だけは取っておかなくていけない。


 それでも――


 電脳怪異が学園中を巻き込んだ混乱を引き起こしてくれたおかげで、私が進めていた計画の準備が整った。近いうちに本番環境でのテストを行うとしよう。里見夏穂にけしかける当て馬もちょうどよくできた。


 やっと――

 ここからやっと私の復讐は始まるのだ。


 被害者でしかない少女たちを利用する鬼畜の所業を行い、地獄に落ちるしかなくなろうとも――私はこれを成し遂げなければならない。


 笑うがいい。

 罵るがいい。

 恨むがいい。


 私はそれをすべて受け止めよう。とうの昔のその覚悟はできている。

 残るカードは三枚。


 これで、あの比類なき怪異の捕食者を彼女から奪い去ることできるだろうか?

 いや、できなければならない。


 できなければ――私も自分がけしかけた少女たちと同じように人として死んでしまうだけだ。

 いままで積み上げた時間が無駄となるだけだ。


 私は私のために、彼女に残された数少ないものを奪い去ろう。

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