かばいあい
ぼろぼろになった扇面ヶ浦の証拠から特定した四社の中から遠鐘は桜井興業を呼び出した。伊刈の助言に従って売上高を推定した結果一番怪しいと睨んだレーベルはあえて後回しにした。桜井社長は頭のはげた小太りの男で一見して苦労人に見えた。同行していた三十代の女性は娘で経理を担当させていると紹介された。親に似ない美人でめりはりのきいた体格をしていたので愛人なのかと疑ったものの、地味なニットのセーターを着ていたので本当の娘だと信じてもよさそうだと伊刈は思い直した。
「こちらのお客様の荷は大和環境に頼んでいるんです。うちはけっして不法投棄はしておりません。もちろんマニフェストもございます。大和さんを信用していたのに不法投棄したなんて信じられないです」遠鐘は桜井興業の産廃が持ち込まれたのはレーベルだと推定していたので、大和環境の社名が出たのは意外だった。ぼろぼろになったほうの産廃からは大和環境の証拠は一点も出ていなかった。
「これまで大和環境の不法投棄が噂されたことはありますか」
「とんでもないです。大和さんはこの業界では大手です。最終処分場もありますし一廃の許可もあって不法投棄なんかやらなくてもいい会社なんです。ほんとになんかの間違いじゃないかと思いますよ」桜井社長は大和環境を表面的にはかばいながらも関与をほのめかした。
「桜井さんはレーベルと付き合いがありますか」遠鐘は鎌をかけた。
「はあレーベルのものも出てますか」桜井は平静を装って答えた。
「レーベルと大和環境は親しい会社なんですか」遠鐘は畳みかけた。
「さあどうなんでしょうねえ。私は知らないですよ。うちはレーベルとは付き合いはないです。毛色が違いますから」
「毛色?」
「大和の笹木社長さんは私と同じ仲間ですから」
「それは韓国籍だという意味ですか」
「もう調べているのでしょう」
「僕はあんまりそういうことはうといほうですから」
「そうですか、ご存知かと思いました」
「レーベルはどうして大和環境と付き合うようになったんでしょう」桜井は二社の関係を知らないと言ったのに遠鐘はまた同じことを聞いた。演技ならなかなかのものだった。
「たぶん社員の堂島か綾瀬の紹介なんでしょう。もともと大和さんに居ましたからね」
「ほんとは詳しいんじゃないですか」
「狭い業界ですからね。これくらいのことは知ってるうちに入りませんよ。今度の調査のことはもうみんな噂になってますよ」
「大和環境のことが噂にですか」
「私は大和さんじゃないと思いますよ。やったのはダンプですよ」
「最後に投げたのはダンプでしょうけど、大和環境を経由した産廃が不法投棄現場に流出した責任は免れませんよ」
「確かにそうでしょう。だけど、この業界はプロだって騙されるんですよ」
「桜井さんの名前はほかの現場でも出たことがありますね」
「ああご存知ですか。でもこの現場はけっしてうちではありません」
「今回は大和環境に運んだということで桜井興業の直接の関与はなかった扱いにしますよ」最後になって伊刈が〆た。
「ほんとにそれに間違いないですから」桜井は恐縮しながらもほっとした顔をした。
続いて呼び出した鷲塚環境社の社長も大和環境に運搬しているという主張を強調した。姫山産業も同様だった。
「今回は大和環境が責任をとることで話がまとまっているんですかね」さすがに遠鐘もおかしいと気付いた様子で伊刈に言った。
「確かにあんまりあっさりと認めすぎるよな」
「大和環境とレーベルってそんなに大物なんですか」
「そうみたいだな。それならそれでいいよ」
「レーベルはどうしますか。どこからも社名が上がりませんが」
「出たとこ勝負でいいじゃないか。レーベルから誰か来たら一緒に聞くよ」伊刈は余裕の表情で笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます