産廃ゴロ

 産廃ゴロの大藪が勝手知ったる様子でずかずかと事務所に入ってきた。ただならぬ気配に伊刈と長嶋が立ち上がって出迎えた。

 「伊刈さん、あんたとは初見だけど俺は右翼の大藪だ。大和環境さんの話は俺が預かることになったから一つよろしく頼むよ」大藪は名刺も何も出さなかった。大柄な体格と坊主頭が特徴のゴロだ。ヤクザがかった外見には似ず無礼な態度ではなかった。大藪は四十代前半の背のすらりとした男前を従えていた。

 「大和環境の営業部長の小堂と申します。この度は大変ご迷惑をおかけいたしました。こちらの役所になじみがないものですから、ただただ驚いておりまして、それでうちの社長が大藪さんをお願いしました。なんでも言っていただければ精一杯のことをさせていただくつもりでございます」小堂は営業担当らしく愛想がよかった。不法投棄の関与を疑われているというのに終始微笑んでいて、会社の不祥事をかえって喜んでいるようにも見えた。

 「やることやってもらえるならいいですよ」伊刈が落ち着いて応対した。

 「社長は忙しいので小堂さんに来てもらったけどよ、大和環境は四月に新潟県の組合の理事長になったばっかの会社なんだよ。こんないい会社が不法投棄をやるわけがねえだろう。何かの間違いだと思うんだよ。やれということは俺がなんでもやらせるからここは一つ穏便に頼むよ」大藪は一流の口調で早くも話をまとめに入った。

 「まあそんなに焦らないでください。まず調査が先ですよ。立派な会社だと言うのならそれを証明していただかないと」

 「それはそうだ。あんたいいことを言うな」

 「まあこちらへどうぞ」伊刈は二人を面接コーナーのテーブルへと案内した。

 「で、どうやって証明しろと言うんだい」大藪は面接コーナーの中央にどっかと座ると自分から切り出した。

 「大和環境経由の産廃は扇面ヶ浦で一台、飯塚町の灯台近くで一台見つかっています」

 「なるほどわかった。全部で二台だな。それをどこに頼んだのか調べればいいんだな」

 「ええそのとおりです」

 「俺が責任を持って調べるからしばらく待ってくれ」大藪は一人で交渉を仕切って小堂には何も発言させなかった。強引そうに見えても一方的に押し切らずに役人の顔を立てながら条件交渉するのが大藪の流儀だった。単にゴネるのではなく自分も約束を守るかわり役所にも約束を守らせる筋を通した交渉術には県市の幹部も一目置いていた。

 「おい今のは大藪だな」二人が立ち去ってしまうと仙道が伊刈に声をかけた。

 「そうです」

 「知らないなら言っておく。やつは大物だぞ」

 「県庁にもたびたび来てますよ。向こうは初対面と言ってましたけど姿は見たことがあります。直接話したのは初めてでした」

 「そうかそれならよかった」

 「県内の産廃ゴロじゃ草分ですよね」

 「そこまでわかってるなら話が早い。行政に顔が利くと聞いてコネがない大和環境が大藪に白羽の矢を立てたんだな。おそらくどっかの右翼か在日の団体を通じて紹介されたんだろう」

 「そんな感じですね」

 「素人じゃねえからな。やつが介入してきたなら嘘でもなんらか辻褄のあった回答を持ってくるだろう。撤去はそれからだな」

 「わかりました。どんな資料を提出するか、かえって楽しみになりました」

 「大藪を相手に物怖じしないとはお前も大物だな」仙道はからかうような励ますような複雑な仕草で伊刈の肩を叩いた。

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