ルーペ
「喜多さん、扇面ヶ浦の調査はどう」
「踏み潰されてないほうのゴミは新潟の大和環境を経由したものにほぼ間違いないです。証拠が五点も出てますから。灯台裏の崖の現場からも同じ証拠が二点出ました。長嶋さんが言ってたとおり全く同じ出所のごみですね。潰されてる方の証拠は判読が難しくて遠鐘さんに手伝ってもらってます」すっかり自信がついてきた喜多はまるで用意してあった原稿を読むように伊刈の問いに応えた。
「大和環境はどんな会社なの」
「それが評判はいい会社のようなんです。新潟県の産廃組合の理事長までやってるんです」
「なるほど。それで大和には電話してみた?」
「まだです。遠鐘さんの方の結果が出てからと思って」
「遠鐘さんどう」伊刈が遠鐘の机を見るとガラス板の上に小さな廃棄物の破片を並べルーペで文字を判読している最中だった。まるで博物館の学芸員か科捜研の鑑識官のようだった。
「今やってるとこです」
「どんな感じなの」
「出どころはいろいろですね。都内のものが多いみたいです。埼玉のも神奈川のもあります。かなり大手の業者が集めたって感じです。決め手がないんでもういっぺん全部調べなおしているんです」
「かなり広範囲なんだな」
「それで絞り込めなくて困ってるんです」
「一番それらしい業者はあるの」
「それがほんとにばらばらなんです」
「どういうこと」
「これまで特定できた排出業者はどこも全部違う業者に出してて共通点が出てこないんです」
「たとえばどこ?」
「たとえばですね、レーベル、桜井興業、鷲塚環境社、姫山産業といった業者名が出てます。二ルートがぶつかる業者があるといいんですが全部シングルなんです。新潟で一社、東京か埼玉で一社まで絞り込みたいんですが。なんだか関係ない会社まで拾ってしまったみたいです」
「あんなボロボロに潰したゴミからよくそれだけ調べたもんだね。社名が出てきた以上どこもみんな関係ないってことはないんだと思うよ。複数の業者に流れたとしてもどこか一社に再委託されてるはずなんだけどな」
「そうだと思うんですけど可能性を勝手に消したらダメですからね」遠鐘の仕事はほとんどもう鑑識だった。
「今の四社で一番大きなところはどこ」
「大きいというと」
「売上高だよ」
「わかりません」
「じゃそれは喜多さんに調べてもらう」
「どうして売上高なんですか」
「一番大きい業者に集まったって考えるのが自然だろう」
「なるほど」
「遠鐘さん、もう一度四社の名前教えてください」喜多が指示を待つまでもなく自分から言った。
「できたら遠鐘さんがリストアップした四社と大和環境の関係も調べてもらえるかな。仲良く一緒に海岸まで来たんだから知らない仲の会社じゃないんだと思うよ」
「やってみます」喜多は伊刈が次に何を指示するかすっかりわかっている様子だった。
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