一触即発

 自警団が結成された翌日には農家が廃材や角材を持ち寄って森井町と飯塚町を縦貫する市道沿いに監視小屋を建ててしまった。最初の数夜は平穏に過ぎた。自警団結成はその日のうちにトラック無線で関東一円に知れ渡り、地元の穴屋もほんとうに活動するのかと様子を見ていた。だが日銭稼ぎの一発屋がいつまでも指をくわえて我慢していられるはずがなかった。四日目の晩、とうとう森井町の監視小屋の前に一台のダンプが姿を現した。

 「おっ、来た来た」監視小屋の中で一升瓶を囲んで夜警をしていた住民の一人がダンプのエンジン音に気付いて飛び出し、酔いの勢いに任せて道路の真ん中に立ちふさがった。幸いダンプは急ブレーキで停車した。たちまち四人の住民がダンプを取り囲んだ。

 「あんだよあんたら」まだ二十歳そこそこの血の気の多そうな運転手が窓から首を出した。

 「けえれ、ここじゃもう不法投棄はさせねえ」住民の一人が言った。

 「道路走って何がわりいんだよ」

 「いいからけえれ」

 「どけよ」

 「どかねえ。けえると約束しろ」

 「どかねえと轢き殺すぞ、このくそじじい」

 「あんだと殺れるもんならやってみれ」

 「おうやってやるよ」運転手はアクセルを空ぶかしして威嚇した。一触触発だった。その時、遠くにパトカーの赤色灯が見えた。誰かが一一○番通報したのだ。

 「ち、もうマッポ呼んだのかよ。やけにはええなあ」細い市道ではUターンもできず運転手はそのままパトカーの到着を待った。

 「おいおめえ免許証持って降りろ」パトカーから降りるなり制服の警察官が怒鳴った。

 「はいはいご苦労さんすねえ」運転手はふてくされながら運転席から飛び降りた。

 同じころ、チームゼロの監視車が松岡台の広域農道(広域営農団地農道)に数珠繋ぎになって順番待ちしている産廃ダンプを発見した。不気味な沈黙を続けていた不法投棄シンジケートの活動が再開したのだ。

 「突入」宮越が指揮するチームゼロのCR-Vが反対車線からダンプの車列に割り込んだ。

 「ゼロ来たぞ、ゼロ来たぞ」無線から緊急通報が鳴り響いた。チームゼロのパト車に撹乱されダンプの車列は総崩れとなった。ライオンの襲撃に逃げ惑う水牛の群れのようだった。ユンボのオペも現場を放棄して逃げた。

 「撤収しよう」宮越はダンプを追い散らしたことで満足し深追いはしなかった。安全のため夜間のダンプの追跡はやらない申し合わせをしていたのだ。どうせ追跡したところで夜パトに慣れてしまったダンプは簡単に道を譲らなかった。市職員だけの職質も無視されるのがおちだった。松岡台の現場をそのままにして宮越は次の監視エリアへと移動した。

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