『盾と大切な時間』

 店の営業を終えて上の階のリビングへ入ると、つきが夕食の準備をしていた。

「お父さん、お疲れさま」

「お疲れ様です」

 裁縫に忙しくなければようすけもそこに加わり、京子がつまみ食いをして食卓が賑やかになる。それぞれが自分の道を進みつつも、つきようすけはこの喫茶店を継ぎたいとも言っている。

「お父さん、そろそろ出来るから呼んで貰っていい?」

「かしこまりました」

 リビングを出て、子供達の部屋に向かって声をかけると、ようすけと京子は元気に返事をしてリビングへ向かった。その去り際に、ようすけが「お母さんのエスコート、よろしく」とアイコンタクトを送ってきたので一礼を返した。

 寝室のドアをノックし「はつさん、夕食のお時間です」と声を掛けると、少ししてドアが開いた。

「お待たせ」

「それでは、お連れしますね」

 着飾ってパーティーに出るわけでもないが、子供達も口を揃えて「だからこそお父さんらしいし、お母さんらしい」と言う。特にようすけはメイドのようにドアの前で待っているくらいには、この雰囲気を皆が好きなのだ。

 堂々と振る舞うことをはつが、相手に敬意を示すことを盾が、その姿で表現し、子供達もそれを見て育っている。

「お母さん、出来てるよ」

「いつもありがとう」

 この穏やかな時間を大切にしたい、とはつを席に促しながら噛みしめる盾。「いただきます」の声が、今日も揃った。

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