楠　初恵：『振る舞いを格好付けただけのことらしくあるのが一番なんだ』

「お母さんって、本当にパンツスーツが似合うよね」

　と、陽（よう）介（すけ）の言（げん）。「スラっとした体型に憧（あこが）れる京（きょう）ちゃんの視線ももっともだよね」と褒（ほ）められ、少し照れながらも「ありがとう」と返事するのが、楠（くすのき）家（け）の母である初（はつ）恵（え）だ。

　その堂々とした、あるいは、芯（しん）の通った言動は確かに子供たちの理想となっていて、その母親の言葉に後（あと）押（お）しされて兄たちが好きなものを追い求め、京子も母と兄たちの背中を追う。

　対して、家族をそっと支えるのが、父親の盾（じゅん）である。穏（おだ）やかで物（もの）腰（ごし）柔（やわ）らかな態度で、喫（きつ）茶（さ）店（てん）の客も家族も関係なく、敬意とともに接する。子供たちが悩（なや）んでいることを一（いつ）緒（しよ）に考える。そうした姿に、初（はつ）恵（え）も「安心して任せられる」と信（しん）頼（らい）を置いている。

　だからこそ、主張の強い色同士も混ざりあえる。そう考えて、子供たちが生まれたあとに始めたこの喫（きつ）茶（さ）店（てん）『フォレスタ』を守っていこうと心に決めているのだ。

　そして、先ほどの言葉に陽（よう）介（すけ）が続ける。

「なんかこう、可（か）愛（わい）い系とは違（ちが）うんだよね……。綺（き）麗（れい）系というか、ゴテゴテしすぎるよりシンプルに『美』を出したい……」

　このとき、陽（よう）介（すけ）が撮（さつ）影（えい）衣（い）装（しよう）のために、初（はつ）恵（え）の採寸を改めて行っていた。衣（い）装（しよう）の系統を揃（そろ）えたい陽（よう）介（すけ）が、ああでもないこうでもないと毎回悩（なや）むのを、「夢中になっているな」と微（ほほ）笑（え）ましく見つめる。