喫茶店フォレスタ《本編》

『盾と旧友』

「やあ」

「お疲（つか）れ様（さま）です」

　夕方にもなると、盾（じゅん）の親友である森宮真（しん）も『フォレスタ』を訪（おとず）れる。

　真（しん）のフランクな人（ひと）柄（がら）は大学時代に知り合ってから変わらないが、後を継（つ）いだ縁（えん）結（むす）びの神社の仕事には真（しん）摯（し）に向き合う。そんな彼（かれ）に、盾（じゅん）も変わらず敬意を払（はら）っている。

「ご注文は？」

「アメリカンで」

「かしこまりました」

　注文を終えると、一呼吸置いて真（しん）が口を開いた。

「今日もみんな来てたみたいだね」

「ええ。皆（みな）さんそれぞれ、思い思いの時間を過ごされましたね」

「やっぱり居（い）心（ごこ）地（ち）良いもんね」

「ありがとうございます」

　仕事をしながら、森宮家の各（おの）々（おの）が「フォレスタに行ってきます」と出かけていくのを見ていた真（しん）が嬉（うれ）しそうに話す。家族ぐるみの付き合いのおかげか、森宮神社の周囲で起きている変化を、少しずつ受け入れられている、と創（そう）や真（しん）は話している。

「結もウキウキで着物を着ていったし」

「お綺（き）麗（れい）でしたね」

「ふふ、本当に。陽（よう）ちゃんの仕立てた衣（い）装（しよう）も着たいって言ってた」

「それは良いですね。結さんの好きな衣（い）装（しよう）を、ぜひ拝見したいです」

　しばらく前も、優（ゆう）樹（き）や創（そう）を連れてコンセプト衣（い）装（しよう）の撮（さつ）影（えい）会（かい）をしていたと真（しん）が聞き、見せて貰（もら）ったその写真（しん）に目を輝（かがや）かせていた。創（そう）は苦笑いしていたが、この様子だと父親は止めるつもりはなさそうだ。

「可（か）愛（わい）い服が好きだからね、結は。優樹は格（かつ）好（こ）いい系だけど、陽（よう）ちゃんのスキルは凄（すご）いね」

「本当ですね。好きに学ばせてみたら、かなり器用になりましたね」

　子供達（たち）について話すと自然と笑（え）みがこぼれる。聞き上手で褒（ほ）め上手な真（しん）のもと、森宮家の子供達（たち）も伸（の）び伸（の）びと育っている。

「真（しん）、何か付け合わせの菓（か）子（し）はいるか」

「じゃあ、クッキーをお願い」

　話の合間に、初恵が戸棚を見ながら声を掛けた。

　盾（じゅん）と初（はつ）恵（え）を引き合わせたのも、そんな真（しん）だった。男らしい女性という雰（ふん）囲（い）気（き）のためか、周囲から少し浮（う）いていた初（はつ）恵（え）を盾（じゅん）が気に掛（か）けていた。そして真（しん）も含（ふく）めた三人でつるんでいた。

　そして、初（はつ）恵（え）に思いを寄せていた盾（じゅん）の相談に真（しん）が乗ったことがある。この地の逸（いつ）話（わ）に由来する神社の当時の後（あと）継（つ）ぎとしての自負から真（しん）剣（けん）に相談に乗り、告白を決断させたのだった。周囲に受け入れられやすいように、あえて公開でプロポーズという形をとって。

「楠家（くすのきけ）の子供達（たち）も、そのうち相談してくるのかな」

「ふふ、その時はよろしくお願い致（いた）します」

　昔の出会いに感謝しながら、これからの家族の姿に思いを寄せていく二人だった。