『美月と色彩』

「……よしっ」

 つい夢中になってあせをかきながら作品作りをすることが多く、Tシャツ一枚とか、夏にはタンクトップ一枚にえるのが、すっかりルーティンとなった。

 だんは見ない、角張ったかたまわりは確かに男性のシルエットで、見慣れているはずの京子からもおどろかれることがしばしばある。

 絵に関しては、『デジタルもいいけど、感覚は忘れたくないし』とかれは言う。やり直しがききにくいからこそ、イメージをふくらませることができる、とも。

 

「店の夏メニューだから、海の色とか乗せてみようかな……」

 空の色にも負けない、海の青。父のじゅんから、夏メニューのかき氷のシロップについてたずねられ、あの青色も夏らしいよね、とブルーハワイを選んだ。

 出すシロップのバリエーションは、一家のそれぞれのオススメを出すことにしたようで、全員が他の家族の答えを聞かなくても、自然とかぶらなかったと、父は語っていた。

「今年のシロップは、家族の色、か」


 ふふ、とみがこぼれた。バラバラのようで、おたがいをじやしない。もちろん、小さいころにはあーだこーだとけんもしたが、今ではうまく混ざり合っている。

 決してできない色は、見ていてきない。いつしよに居るからこそきわつ色もある。だからこそ、写真にも残したいし、絵にも残したい。笑われるから、と学校ではやりにくいようすけえがいた絵も、家で改めてえがいてプレゼントしている。

 母のはつからは『じゅんのように、よく人を見てくれる』とめられたこともある。『自然とそうなった』と返すが、実は美月がホールの手伝いに入ると、だんとはちがう客層からの評判が聞けるらしい。

「だって、この家族を見たら、自然と居場所に出来るひとも居るよ」

 鼻歌交じりに筆が乗り始めると、アイスコーヒーの氷がからん、と音を立てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る