楠 美月:『彩りにあふれる我が家他人には真似できぬ色見えているから』

『美月と服』

「このプリントTシャツはちょっと……」

「だって、いまそれしかえのシャツがないだろ」

 ピンクのハートがどでかくプリントされた、「Iラブ○○」のアレだ。仕方なく着ることにしたものの、容姿とのギャップがないことに何とも言えないくやしさを感じる。


 昔からそうなのだ。兄のようすけは慣れた様子だったが、小さいころから女の子とちがわれやすく、デパートでもらった風船が女の子向けで、京子とこうかんした幼少時代。ようえんや小中学校ではもちろん女子あつかいされすぎて、女子から同情されて情けなくて泣いてしまったり。

 兄がとくちようてきな服装を望むし、個性的ないを望む人だったから心が休まることも多い。とはいえ、そのものめずらしさで、友人からかくされるのはなつとくがいかなかった。

けてもダメ、ふただからちがってもダメ。ダメ、だめ、。みんなこうだもんねえ」

 家庭ではおたがい慣れっこだし、こういうからかいが学校であれば、『はみ出しすぎはめんどうごとになるぞ』とは言う初はつが、学校へほどほどに苦情を言ったものだ。逆に学校は、話の分かりそうなじゅんに伝えようとしたが、この親にしてこの子あり。『登校するときは守らせますが、休日くらいはいいじゃないですか』とかわして守ってくれたので、感謝している。

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