「陽介と知り合った人」

「気を付けてねー」

「ありがと」

 そうを見送ろうと、ようすけも店の入り口に立つ。風で制服のスカートが大きくはためくのを見て、少しあきれたように『もどっていいよ』と言われてしまった。

「さて、と」

 中にもどって、あたりを見回す。

 常連の中には、ようすけが男であることを話した人もいるが、そうでなくても結構察してもらっている。そもそもが個性的過ぎてコアなファンか慣れた人くらいしか定着しない。

「美月もあのふたりに仲良くしてもらってるしねー」

 思い出したのは、そうたちきょうだいのしようかいで店に来るようになった、はくれんというせいねんふたりのこと。年が近いことや、芸術関係の大学同士ということもあり、意気投合した。ようすけから見ても、からかい甲斐がいがあって気に入っている。

ようすけ、そろそろピークも過ぎたから、洗い物を手伝ってくれ」

「はあい」

 そでをまとめ、消毒液で手をらす。「この服装でキッチンに入るときは気をつかえ」とはつからきつく言われているので、ホコリなどもはたいてから。

「……別に清潔を保ってくれたら構わないけども、せめてパンツスタイルにしてくれとは思うぞ。風にあおられてたし」

「え、見えてた?」

「だからそうに目配せして、代弁してもらった」

「あっ、くっそずかしい……」

 苦笑いしたままのはつうながされ、少し静かになった店内で食器を洗い始めた。

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