Days.6 Fleeting love's dream

彼と出会ったのは高校2年の夏

河川敷を歩いていた時であった。


僕はふと、熱心にスケッチしている、

彼を見つけた。


水面にいる鳥を模写していたのだ。


僕はその上手さに思わず見とれてしまった。この時から既に、彼の世界へと足を踏み入れていたのかもしれない。


彼が不意に振り向き僕と、目が合った。


「あっ...、ごめん」


「あっ、いえ...」


見た限り、僕と同年代のように見えた。


「その...、すごく上手だね」


「え...、あ、ありがとう...」


彼は自分の絵が評価されて少し意外だったみたいだ。

僕は誰に対してもすぐ打ち解けるタイプだった。


「...僕は川場ミライ、君は?」


「佐和陽人...」


少し警戒しているのか、ちょっと声量が小さかった。


「他にどんな絵を描いてるの?」


「えっ...、えーっと...」


彼はスケッチブックを捲った。

動物の絵が書かれていた。


「あっ、トムソンガゼル?」


「えっ、すごい、良くわかったね」


彼は初めて明るい声を出した。


「動物好きなんだ。だからある程度はわかるよ」


「そうなの?僕もよく動物園に行って

動物を描いてるんだよ」


「そうなんだ!」


こうして、僕と佐和君との出会いを果たした。

そして、何度か川原で会ううちに、僕は彼に対して恋心を抱いていた。

僕は彼の絵を見習い、自分も絵を描いて贈ろうと思い、美術部へ入部した。


高2の冬休み。

僕は思い切って佐和君をデートに誘った。もちろん、場所は動物園であった。

僕も楽しかったし、佐和君も楽しそうだった。

この時に、あの“サーバル”の絵を貰ったのだ。


そして、高3の4月。

僕は桜並木の、あの佐和君と出会った場所で、勇気を振り絞り


「佐和くんのことが好き...!だから...付き合って!」


告白した。


「いいよ」


彼は笑顔を浮かべた。

僕はその時の顔が忘れられなかった。


しかし、その3ヶ月後

僕が彼の誕生日に贈ろうと思って

丹精を込めて描いた絵が殆ど出来上がって来た時。

7月18日、彼の誕生日の4日前


1本の電話が僕の元へと掛かってきた。


「もしもし、川場ですが...」


『川場さん...、あのミライさんは』


「えっと、僕ですけど...」


『ああ、そうですか。陽人の母です』


「あっ、どうも...」


陽人の母の声は少し、わびしい声だった。


『陽人と...、親しくしてくれて、ありがとうございました』


その言い方に違和感を覚えた。

それと同時に妙な胸騒ぎもする。


『昨日、陽人は病気で...、亡くなりました...』


「え...」


僕もこの時、頭が真っ白になった。

何を言っていいのか、全然わからなかった。

その電話のあった次の日に、通夜と葬式の日程が書かれた手紙が送られてきた。


彼の死因は、心臓発作。

小さい頃から心臓が弱く、激しい運動などは出来なかった。そこで彼は、絵という趣味に没頭したのだ。


僕は悔やんだ。

彼の事を知ったつもりでいたが、よく知らなかった。

病を患っている事を知っていれば、

気にかける事ぐらい出来たはずだと。

その責任が、僕に重くのしかかった。


棺に僕は、渡すつもりだった絵を入れた。

泣かずには、いられなかった。


陽人の母親は、

「あなたが陽人と出会ってくれて本当に良かった」と言ってくれた。


もし、あの時僕が声を掛けて無ければ、

陽人は一生孤独のままだったろう。


しかし、彼は命を落としてしまった。

僕は責めてもの、自分の中での償いとして彼の好きだった動物を助ける獣医という道に進んだ。

凌空が言っていた事と殆ど同じだ。


全ての空白が埋まったピースは時計となり、再び動き出す。


これが、この世界の“かばん”ではなく

“川場ミライ”としての、人生だ。


僕は仏壇の鈴を鳴らし、手を合わせた。


写真の彼は飛び切りの笑顔を見せていた。

初デートの時の写真。


(また、会えて良かった)


そう、心からのメッセージを彼に伝えた。

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