Days.5 Youth high school

ピンポーン


ドアのチャイムが鳴った。

今日は約束の日だ。


「みんな久しぶり!」


「私は結構前にあったけどね!」


「こっちは久しぶりだよ」


その口振りは、フェネックそっくりだ。

今日は、新井さんと空香と一緒に

高校に行く約束をした。

この3人で出かける事は、久しぶりだ。




空香の運転する車で高校に向かった。



「懐かしいなあー」


新井さんはそう言った。


「3、4年前だもんね」


僕はそう口にした。

3人で玄関の方まで歩いて行った。

そこで出迎えたのも懐かしい人物だった


「みんな、久しぶり」


「か、樺田先生!」


「私が頼んでおいたのさ。

先生と親しかったもんね」


勉強で忙しい空香がそこまで手を回してくれていた事に、驚いた。


「さ、どうぞどうぞ」


僕達は思い出の高校へと足を踏み入れた。

僕にとっては、“サーバル”へと繋がる、重要なヒントがある場所だ。


「そうそう、ミライちゃん、あなたに

会いたいって人が美術室で待ってるわよ」


「僕にですか?」


先に美術室へと向かった。


新井さんと空香は“むこうから招待されたんだから”と、僕だけで会うように言われた。


美術室のドアを開けると前の席の方で座っている人物がいた。

間違いない。彼女だ。


「久しぶり、ミライ」


「凌空...」


「まあ、座りなよ」


と、自分の前の席の方を指差した。


「あ、うん」


「いやあ、懐かしいね」


「会えてよかった...。事故で記憶がちょっとすっ飛んでて」


「アライさんから聞いたよ」


彼女はふふっ、と笑った。


「ミライが美術部に入った理由を聞きたいんだろ?」


「そう」

僕は短く頷いた。


「単刀直入に言うと、彼氏の為だ」


「か、彼氏...、それってもしかして、

サワくんとかって言う...」


「ああ。私がミライの様子を見てちょっと怪しかったから何度も何度もお願いして聞いたらその名前を言ってくれた。

彼の名前は...」


凌空はわかりやすいようにか、ノートの端っこに名前を漢字で書いた。

見せられたノートには、

“佐和 陽人”と書かれていた。


佐和陽人さわはると、隣町の高校の子だ。

“ミライの彼氏”のね」


「ちょっと待ってよ。なんでそこまで断言出来るの...」


「ああ。黙ってて悪かったんだけど...私の友達で新聞委員に入ってた

網木凛あみきりんに頼んでミライの彼とのデート写真を撮ってもらった。それでミライと

陽人が付き合ってた事を私は確信したのさ」


そうして彼女は1枚の写真を机の上に置いた。

僕はその写真を見つめた。


河原でスケッチしている様子を写した写真であった。髪色は茶色っぽく、サーバルを思わせる髪型だった。


普通なら隠し撮りで怒る所だが、

今では、決定的な証拠なので、

逆にありがたいという気持ちが強い。


「あの、佐和くんって今...」


「君は、彼に絵を贈ろうとしていた。

彼の好きだった動物の絵のね。

だけど、お世辞にも君の絵は上手いとは言えなかった」


彼女が急に僕の呼び方を変えたのでドキッとした。


「だから一生懸命、練習したんだ。

そして、満足行く1枚が完成しかけた時だった。君は暗い顔をしてここへ来た。私は尋ねた。どうしたのかって」


僕は固唾を飲み込んだ。


「病気で亡くなったって、言ったんだ」


「・・・・」


「君は彼の命を救えなかった事を悔やんだ。そのせめてもの償いとして、彼の好きだった動物の命を救おうと獣医になった」


「そう...、だったんだ...」


「後半のは私の推測だけど、

当時の君から全部話を聞いた」


「なるほどね...」


(僕の彼氏がサーバルちゃんだなんて、

ちょっと不思議だな...)


「ありがとう、凌空。

あとは僕でどうするか、考えるよ」


「力になれたなら、光栄だよ」


「今なにやってるの?」


「大学1年の時に小説を書いて送ったらたまたま当たってね。作家...かな?

まあ漫画も書いてるけどね」


彼女は笑ってみせた。


僕は彼女に礼を述べ、2人と合流した。

僕達はせっかくだからと自分達が学んだ教室に来た。


「僕の席ってこんな前だっけ?」


「そうだよー。私とクウが隣同士だったー」


新井さんがそう言った。


「アライさん数学の時間寝てたから、

よくノート貸してあげたじゃん」


ニヤニヤしながら空香が言った。


「だ...」


「数学と言えば、アライさん大槌おおつち先生によく怒られてたよね」


僕はそれを思い出し、ふっと笑った。


「寝てるからだよー」


空香もクスッと笑いながら言った。


「成績はギリギリ良かったし!

卒業出来たからいいじゃんもーっ!!

それに数学はともかく、体育はよかったし」


「あー、確かにね。

運動神経意外と良かったよねアライさん」


「水泳部の...えーっとアレは...」


矢川栞やがわしおり、あの子を負かした時は気分爽快だったぁー」


昔の思い出を語った。

僕もあの二人と会話が出来て楽しかった。


帰りも空香が送ってくれた。


距離的にはアライさんの家が学校から近く、僕の家の方が遠い。

空香はその真ん中辺りだ。


アライさんを家の近くで降ろしたあと、

車内は僕と空香の二人っきりになった。


「ねぇ、ちょっと寄り道してもいい?」


「ん、いいよ」


何処か近場に寄るのだろうとてっきり思い込んでいたが、どんどん人気の無いところに入っていった。


辺りはいつの間にか森になっていた。


(空香はこんなところで何をするつもりなんだろう)


唐突に車を道に止めた。


「ねぇ、ミライ」


「な、なに...」


「ずっとミライに言ってなかったことがあってね...」


(一体なんなんだろう)


「私ね、ミライのことが好き」


その台詞を聞いた瞬間脳裏を過ぎったのはこの前、夢でフェネックが言っていた言葉だった。


「えっ...」


「私、ミライを友達としてじゃなくて

恋人として見てたんだ。あの高校時代」


(こ、恋人...)


「私は言わなかった。だって、変だもん。女子が女子を好きになるって。

ミライ、彼氏いたし」


「しっ、知ってたの...」


「雰囲気的に察したんだ。

その後、勉強でその気持ちを押さえようとしてたんだ」


「でも、何で急に?」


「学校に行ったら思い出しちゃって...ミライみたいに...」


こちらを見つめる顔とあの夢のフェネックが重なって映る。

僕は笑った。


「僕は、構わないよ?」


少し意外な答えだったのか、少し驚いた様子だった。


「別に、誰を好きになろうが、人の勝手だよ」


「ありがとう、ミライ」


空香はそう言うと、

言い方を変えるなら“プレーリーの挨拶”を、軽くではあったが僕に対して行った。


「あははっ、空香って動物に例えると

フェネックに似てるね」


「ふふっ、なにそれ」


彼女は幸せそうな顔を見せていた。

もしかしたら、あっちのフェネックさんも同じ事を望んでいたのかもしれない。


夢の世界の住人は、少しおかしい。


そんな世界の創造主である僕も、

“おかしな”人間の一人だ。

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