Days.4 Stationary self room

僕は祖父母と会った。段々とこの世界の事が明瞭になっていく一方でジャパリパークに戻れないと思うと、寂しくなった。


「ミライ、まだ2階のあなたの部屋そのままにしてあるから、見てきていいわよ。夕食になったら呼ぶから」


僕は母にそう言われたので、2階の自室へと向かった。2つ程扉を間違えて開けたが自宅なので、問題はないだろう。


僕は自分の部屋の扉を開けた。


奥側には大きな窓。傾き始めた太陽のオレンジ色の光が差し込む。

壁は白く、フローリングは薄い肌色をしている。その上に敷かれている緑色の

芝生の様な絨毯が目を引いた。

左側には木の色の机があり、その奥にベッドがある。

右側には大きな本棚がある。


僕は右側の本棚を見た。


本棚に入れられてるのは全て動物関係の本だ。


ちゃんと50音順に整理されている辺りに僕の几帳面さが伺い知れる。


目を追って順番に見ていくと、気になる本があった。


“ネコの飼い方”


という本。


本の間に何かが挟まっている。

僕はそれを手に取り、そっとその紙を

確認した。


その紙には絵が描かれていた。


「・・・サーバル?」


野生の姿のサーバルの絵だった。

色鉛筆で描かれており、その毛並みの一本一本まで丁寧に描かれていた。

かなり、クオリティの高い絵であった。


僕がこんな絵を描けるだろうか。

恐らく、誰かから貰ったモノだ。

裏面を返して見ると、右端に小さく

“S・H”と書いてあった。


(S・H…、誰だろう)


それだけのヒントでは完全に思い出す事が出来なかった。


その絵はまた本に挟み、元の場所へと

戻した。


それから僕は、机の引き出しを調べた。

中には動物園の入園券の分厚い束があった。そして、数枚の鉛筆のデッサン。

先程のサーバルの絵とは少し雰囲気が違っていた。サインも無いので、僕が描いたものかもしれない。


「ミライ!ご飯よ!」


母の声で、僕は下に降りた。


卓上にはご馳走が並べられていた。

僕の作れないような料理ばかりだ。


(博士さんにこんな料理を出してあげたらどんな...)


そうだ。

彼女達は実在しないんだ。

彼女達は僕の作り出した...


「お姉ちゃん?」


カコの声でハッとした。


「あっ、ちょ、ちょっと考え事してただけだよ」


僕はカコの方を振り向いて見せた。


「さ、今日は大事な孫の退院祝いだ」


「お父さん、仮退院ですよ。

検査で何度か通院しなきゃいけないんですから」


祖母が祖父に対して苦言を呈した。


「どっちも似たようなもんだろ...」


「まあまあ、おじいちゃん、おばあちゃん、お姉ちゃんが居心地悪くしちゃうよ!」


「ま、とりあえず食べましょう。

久々の家族での食事なんだから」


(家族...)


母が言った“家族”というワードが僕の心に響いた。


久々の家族との会話は弾んだ。

楽しかった。


あっという間に時は過ぎ、

夜の22半になった。


「先行ってるわ」


祖父がそう言い、リビングを出た。


祖母ももう寝ようとしている素振りを

見せたので僕は声を掛けた。


「おばあちゃん、一緒に寝てもいい?」


すると祖母は微笑んで、


「いいわよ」


と言った。


僕は祖母の隣の布団に入り、こんな事を

口にした。


「病院に入ってた時、不思議な夢を見たんだ。動物が人間になって、僕は一緒に旅をするんだ」


「みぃちゃんらしい夢じゃない

どんな旅だったの?」


祖母はそう尋ねた。


「えーっとね...」


僕はサーバルちゃんとの出会いをゆっくりと話した。

でも眠気のせいか、途中から目を擦りながら話した。

そして、徐々に眠気の波に僕は飲まれて行って、途切れ途切れに話すようになり、いつの間にか、眠ってしまった。





「かばんさーん」


(フェネックさん...?)

彼女は何故か笑っていた。


「あのね...、私ね...、かばんさんが..

.」


僕は黙って彼女の顔を見つめた。



“すきなの”



そう言うと彼女は僕に顔を近付けて...







僕は目を覚ました。

小鳥が庭で鳴いている。


(あの夢は一体....、空香....?)


よくわからない。


(顔でも洗おう...)


そう思い僕は起き上がるのだった。




家に来てから3日後、僕はあの喫茶店に寄った。


カランカラン...


「いらっしゃ...、おや?ミライちゃんかえ?久しぶりだなぁ...」


丸い眼鏡に白い口髭、七三分けの髪

マスターと呼んでいる摺沢さんだ。


「久しぶりです。お元気そうで...」


「おかげさまで...」


マスターは深々と頭を下げた。

僕は本能的にいつものカウンターの席へと座った。


「何にします?」


「いつもので」


僕はふぅと一息ついて、辺りを見回す。

レトロな雰囲気がとても好きだ。

平日の午前中、客は僕一人。

ジャパリカフェに来たみたいだった。


「ミライちゃん、最近忙しかったのかい」


カウンターで作業をしながら、

訛りの入った標準語で尋ねられた。


「えぇ...、まあ...」

(そうか...、マスターは僕が事故にあったことは知らないんだ)


「全然変わってませんね」


「そうだねぇ。あまりいじくり回すのは

好きじゃないからねぇ」


「そうですか...

僕はどうですか?高校の時と比べて」


マスターは僕の顔を確認した。


「大人になったよ。子供の成長は早いねぇ...」


感慨深そうに言った。


「高校時代の僕どんな感じでしたか?」


「ものすごく一生懸命に努力してた。

そんな感じだったねぇ。けど、一時期

男の子連れて来てて...」


「男の子?それ、どんな感じの?」


「そうだねぇ...、髪は長めで茶色い髪をしていたねぇ。スケッチブックを

持ってた気がする。ミライちゃんと

動物の話をしてたよねぇ」


「その人の名前って...」


「うーん・・・、なんだっけかなぁ。

聞いたことあるようでないんですよねぇ。ミライちゃんが確か...、

サワくんって言ってた様な気がするねぇ」


(サワくん...)


まだピンと来なかった。


「だいぶ仲が良さそうだったから、彼氏さんかと思ったけど、本人は違うって

言ってたけどねぇ」


(仲の良い男子...、スケッチブック...、

サワ...)


僕にはその人物を思い出すことが中々出来なかった。


「はい、お待たせ」


マスターは一杯の紅茶を僕のテーブルに差し出した。ミルクを入れ軽くかき混ぜる。


それを一口、喉に通した。


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