Days.3 Key of illusion



僕の病室に新井さんが来た。

勿論、フレンズじゃない方の。

友達なのは間違いないけど...


「ほら、ミライ!口開けて!」


さっき注意したが、未だテンションが高い。

持ち寄ったショートケーキを切り分け

プラスチックのフォークにさし突き出す。


「ひ、1人で食べれるよ...」


そう言うと、頬を少し膨らませ、不服な顔を見せる。

そういう子供っぽい所は、成人過ぎても

変わらない。


「わ、わかったよ、わかった...」


僕はしぶしぶ口を開けた。


「最初から素直にすればいいのに...」


ケーキを僕の口に入れると満足した顔を浮かべた。


僕はそれを飲み込み、気になっていた事を尋ねた。


「あの、アライさん、高1の時にカレー作ったよね。あの時何があったんだっけ...」


すると苦虫を噛み潰したような顔をした


「それ聞く...?カレー事件は禁句にしたんだけど...、まあいいや」


一度咳払いをして、それを話した。


「あの時は野外でやっててー...、カレーを煮詰めてたんだよね。

そしたらちょうど調理場の上の方に、

セミがいて、なんか知らないけどそれが落ちて、誰も気づかなくって...

確か、私が食べて大騒ぎして、それで皆大パニックになったって話。

最初、コノハとミミちゃんは私が“セミだ”って言ったら、呆れた様なこと

言ってたけど、私がその虫の頭見せたらもー、大騒ぎで...」


「えっ、セミが落ちた事知ってたの?」


「あー・・・」


どうやら墓穴を掘った様だ


「知ってたのに言わなかったの?」


「知ってたけど...、作り直すの面倒くさそうだったから...」


目が泳いでいた。


「・・・絶対に空香の前で言っちゃダメだよ?」


静かに肯いた。


「・・・それはともかく、

僕が何部に入ってたか思い出せないんだ。何か知ってる?」


「高2の春から美術部入ってたじゃん」


「美術部...」


(そうか、だから僕は大上さんとの

会話を覚えてたんだ...)


「なんで入ったか、理由知ってる?」


「さぁ?あの時何にも言ってないし。

帰宅部だったミライが唐突に入ったからこっちもビックリしちゃって」


彼女の話によると僕は突発的に

美術部へ入部したらしい。

一体なぜだろうか。


「でも、あの時のミライなんかちょっと嬉しそうっていうか...」


そんな事を呟いた。


「ねぇ、空香は元気?」


「元気だよ。なんだっけなー。検事になるとか言ってたよ。

毎日勉強で、私みたいにヒマじゃないんだってー」


「あのさ、歩ける様になったら、

連絡するからさ、そしたら、みんなで集まろう」


僕はそう提案した。


「いいよ」


新井さんは即答だった。


「でさ、“大上さん”が今どこでどうしてるか、調べてくれる?」


「リクちゃん?わかった、出来る限りはやってみるよ」


「ありがとう、アライさん」


「友達の頼みならなんでも聞いてあげるよ!」


あのハシャグ新井さんが出ていって

病室は寂しくなった。


(アレが僕の友達か...)


両腕を頭の後で組む。


(・・・僕は向こうの友達の

サーバルちゃんを救った。

ずっと、こっちの世界に身を置いてもいいかな...)


だけど、僕が“サーバルキャット”

と出会ったのは本当に猫を助けたから?

ネコ科の動物なら沢山いるはずなのに

なんでよりによってレアリティの高い部類に入るサーバルと結び付いたんだ?


今までの法則で行くと、

新井瑞希はアライグマのアライさん

笛音空香はフェネックとしてジャパリパークに存在していた。


名前...


サーバル...、さーばる...、さあばる


全然わからない。


自分自身が意図的に“サーバル”に該当する人物を欠落させたのだろうか?

でも、何のために...?













僕は親に迷惑を掛けたくないと思い

病院である程度足を動かせるようになってから、家に帰ると決めた。


そして、目覚めてから数週間後

たどたどしい足取りだが、なんとか1人で歩ける様になった。


医者は僕の回復能力の高さを奇跡だと賞賛していた。

僕がフレンズだから...

いや、そんなことは無いか。

少し、寂しさを覚えた。


車で母が迎えに来てくれた。

日曜なのでカコも一緒だった。

カコは家に着くまでの間、こんな話をした。


「お姉ちゃん、大学のこと思い出した?」


(大学...)


僕の通っていたという短大の事だろう。

高校の思い出は芋づる式に思い出したが、大学は全然覚えてない。


「いいや...」


そう答えるとカコは、ふふっと笑った。


「お姉ちゃんの大学の話を飽きるほど聞かされてたんだから、こっちは。

忘れたくても忘れられないよ」


(一体こっちの僕って...)


「特に動物園で研修した時の話なんか

2時間ぶっとうしで聞かされ続けたし」


「そ、そうだっけ…」


「そうだよ。お姉ちゃん、恩田さんって知ってる?」


「恩田...?」


恩田利佳おんだりか。友達だって言ってたじゃん!私も会ったことあるよ。

大学じゃお姉ちゃん、動物と触れ合う度に目を輝かせて、凄い熱心に生態とか解説してきて、あのテンションで振り回されて大変だったって」


「そ、そんな人だったんだ...」


僕は微笑した。

同時に恩田という人物も今思い出した。


内気な子であまり他人と接するのは得意じゃないみたいだったけど、僕が話しかけてるうちに打ち解けて仲良くなった。

大学時代唯一の親友だ。


「恩田さん、あなたが事故に会った時真っ先に駆けつけてくれたのよ。

今は地方にいて中々戻ってこれないみたいだけど、あなたが直接電話したら喜ぶんじゃない?」


「そうだね。家に着いたらそうするよ」


僕は母の言葉にそう言い返した。


車窓から見る風景。どれもどっかで見た事あるという感じがした。

とある交差点で車が信号で止まる。


「あっ、ここの交差点を右に行くと

何があるか覚えてる?」


僕は首を横に振った。


「お父さんのせいで家に居られなくなったお姉ちゃんがさ、通ってた喫茶店だよ」


(喫茶店...)


「お姉ちゃんとそこのマスター、仲良かったよね」


あれは高校3年の時...

父は怒りっぽくなっていた。

そのため家ではほぼ毎日ちょっとした事で大喧嘩が絶えなかった。


僕はそんな家に呆れて、歩いて15分かけて、その喫茶店に逃げ込んでいた。

マスターは僕の家庭の事情を察したのか色々優しくしてくれた。

コーヒーよりは紅茶が好きだったので、

紅茶を頼んでいた。


閉店ギリギリにやって来る僕の話を

親身になって聞いてくれていた。


(佐渡島出身の摺沢すりさわさんだっけ...)


心の声で呟いた。

下の名前は覚えてないけど、何故か苗字と出身地は覚えていた。


僕はその右側の道を見ながら 、その交差点を通過した。


5分ほどで家に着いた。

二階建てのまだ、綺麗さが残っている家だ。

今まで自分が、野生動物が沢山いる自然界にいたという事が信じられなかった。


「ただいま!」


カコが大きな声を出し、玄関の扉を開けた。


僕がカコと母の後に続きゆっくりと

玄関に入ると、出迎えていた人物がいた。僕はひと目でわかった。


「おばあちゃん、おじいちゃん!!」


僕の祖父と祖母だった。


「無事で良かったわ...」


髪型があの“フレンズ”に似ている祖母が

泣きそうな声で言った。


「元気そうじゃないかぁ…」


一方、灰色の髪をオールバックにしている祖父も嬉し泣きしそうな声で言った。


「お姉ちゃんが帰ってくるから呼んでおいたんだ!」


カコは嬉しそうに言った。


この時、僕は思った。


僕の中で父という存在が具現化したのがセルリアンだった。

それを打ち砕く存在、

“セルリアンハンター”としてあっちの

世界に出てきたのが祖父母だ。

僕達のもう1つの避難場所になっていたのが祖父母の家。

動物が好きだった僕は、祖父母の名前に似ている動物をセルリアンを打ち砕く存在にしたのだ。


祖母は、大熊久代おおくまひさよ

祖父は、大熊志功おおくましこう


そして、僕個人の中でも恩田利佳と言う

存在が、夢の中で都合よく調整されたのか、奇しくもセルリアンハンターの仲間として出てきた。


僕の“ジャパリパークという夢”のメカニズムがまたひとつ解明されたのだ。

徐々にサーバルという“核心”に迫って来ている。そう僕は思った。

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