第十八話・前:王の真実

 化け物。化け物。悪魔の子。

 お前が災厄を呼んだんだ。

 そう言って石を投げる。

 昨日まで一緒に遊んでくれた人達が、石を投げる。


 そんな懐かしい夢を見た。

 ガタンゴトン、揺れる馬車で、罪人の如く、両脇を軍人に固められながら。



第十八話・前編:王の真実



 コツン、と靴を鳴らして、スペルビアは石畳の廊下に足を踏み入れる。相変わらず薄暗くて埃っぽい。スペルビアは、彼の『同胞』が集うこのアジトがあまり好きではなかった。

「あーあ、つまんない。結局大してジュンとお話出来なかったしさぁ」

 前を歩くアーリマンがそう言って、わざとらしく大きな溜息をつく。彼はくるりと軽やかにターンして、スペルビアに向き直った。

「大体、アンタが『翠の英雄』を一緒に入れたから悪いんだよ? ほんっと使えない」

「僕が君に頼まれたのはヤマダジュンを君に会わせることだ。仕事はこなしたのだから、文句を言われる筋合いは無いな」

「頼んでないよ。命令したの。立場を履き違えないでくれる?」

 沈黙が流れた。周囲の気温が数度下がるような殺気と苛立った空気がその空間を支配する。インウィディアがこの場にいれば泣き出してしまったであろうその冷たい空間で、唯一の部外者たるアケディアはどこ吹く風で欠伸をしていた。それはそうで、スペルビアとアーリマンの衝突はよくあることだ。スペルビアは子供じみたアーリマンが気に食わず、アーリマンは己より下の立場であるスペルビアが自分に意見するのが気に食わない。

 『同胞』の、三強に数えられるうちの二人である彼等が衝突する時は、あの首を突っ込みたがりで命知らずな『色欲』でさえ知らぬ存ぜぬを貫くものだ。その場にありながら呑気に居られるのは、残りの一人であるアケディアくらいのものである。

 そして、アケディアの実力を認めているアーリマンはアケディアにだけは甘いところがあり、彼に対して癇癪を起こすことは無いのが常であった――が。

「アケディアもさぁ、趣味悪いんじゃない? スペルビアなんかに入れ込んでるの」

 ――今日は、相当苛立っていたためか、彼にも矛先は向けられた。

 アケディアの赤い瞳が、ゆるりとアーリマンへ向けられる。『怠惰』たるアケディアはそれに違わず怠惰的で、アーリマンの相手をすることは少ない。普段ならばアケディアは黙って流していただろう。だが、話題が悪かった。

「……よく囀るな、ファザコン野郎」

 低く、バリトンが地を這う。まずい、とスペルビアの背筋に嫌な汗が伝った。その場の空気が、また数度、冷たくなる。

 三強と一口に言うが、序列は存在する。アーリマンとアケディアが、その二強にあたる存在だった。スペルビアはまだ引き際を心得ているが、この二人がぶつかり合えばどうなるか、想像もつかない。アジトの全壊すら覚悟して、スペルビアは我が身を守るために構える。

「……あーあ、萎えちゃった」

 ――しかし意外にも、先に退いたのはアーリマンであった。

「アケディアのこと嫌いじゃないけど、そーいうとこはよくわかんない。じゃあね、オレお父様に報告してくるから」

 踵を返して、アーリマンは悠々と歩いていく。あれだけ放っていた殺気はもう影も形も無くなって、相変わらず温度差が激しい奴だと肩透かしを食らったスペルビアは深く溜息をついた。アケディアはといえばこちらも素知らぬ顔で、よく懐いた大型犬のようにスペルビアに擦り寄ってくる。

「……機嫌は治ったようだな」

 先日の路地裏での様子を思い出して、スペルビアはまた溜息をつく。あの時は妙につれなかったというか、不機嫌な様子だったが、今はむしろ無表情ながらも上機嫌に、自身より低い位置にあるスペルビアの肩に腕を回すように背後から抱き着いていた。

 しかし、アケディアの機嫌の上昇よりも、スペルビアには気になることがある。

 何故『お父様』はインウィディアを手放すことにしたのか――まず確実に、インウィディアのためなどではない。

「スペルビア」

 スペルビアの思考は、アケディアにその身を引き寄せられて途切れた。

「廊下は冷える。部屋に戻ろう」

 先程まで上機嫌だったというのに、今は眉を寄せている。その雰囲気は、路地裏での様子に似ていた。

 ――成程。スペルビアはそう、路地裏で言った軽口が正しかったことを理解する。彼は要は、恋人に自分を放置されて拗ねている。

「……アケディア。アーリマンの独断行動をお父様に告げ口したのは君だな」

 アケディアは黙ってそっぽを向いた。



「レオンが連行されたぁ!? 訳わかんねぇ、何でだよ!!」

 リシュール王城内の、個人用に区切られた医務室の一つ。そこに運ばれたアカザが目を覚ましたのは、もうすっかり夜も更けた頃だった。『それ』を聞いてすぐ飛び上がって叫んだ彼は、その後すぐ、うぐ、と呻き声を上げる。ベッドがぎしりと僅かに軋んだ。

 そして腹を抱えて背を丸めたアカザに、純は「あんまり動かない」と声をかけた。

「お医者さんの話では、切り口が凄く綺麗で内臓とかの大事な部分には一切損傷が無いから、治りも早いだろうってことだったけど……一夜で治るようなもんじゃないんだから」

「……畜生、あのスカした野郎……ッ嘗めやがって」

 わざとそんな風にしたんだ、と、今ここにはいない男――スペルビアへの届かない恨み言を吐いて、アカザはぎりりと歯軋りをする。

「……気持ちはわかるけど、落ち着いて。ウィディが怯えてる」

 純の言葉で、アカザは漸く純の隣で震える少女に気が付く。少女、インウィディアは、怒りを燃やすアカザに怯えたように純の腕にくっついて、小動物のようにアカザを潤んだ瞳で見ていた。

「あ、……ごめんな、ウィディ、ちゃん? 俺としたことが女の子を怖がらせるなんて……ごめんな、怯えないでくれ。君はきっと笑った方が可愛いよ、こんな状況じゃなきゃナンパしてた」

 アカザが何とか安心させようと、優しく笑う。スラスラと褒め言葉が出るのは流石といったところだろうか。可愛いと言われたインウィディアはぼっと顔を赤く染め、俯いて純の後ろに隠れた。

「……インウィディア。それが私の名前……だけど、ウィディ、って、呼んでも、良いよ」

 ぽそぽそと、純の後ろに隠れたままインウィディアが零す。アカザが笑って、「ああ」と頷いた。

 微笑ましい空間、それに、純も少しだけ微笑む。だが、この空間にレオンは居ない。その事実が、純の心に影を落としていた。

 インウィディアについては、アイクとメイリーに『シュヴァルツで捕まっていた所を保護した』と説明し、一緒にパルオーロに連れてくることができた。嘘は言っていないが、誤解はあるだろう。インウィディアが闇属性であることはまだ純とハザマしか知らない筈だ。

 そういう経緯でインウィディアは無事だが、レオンが今何処にいるのか純には分からない。彼は、メイリーが呼んだ軍人に連行され、純達とは分断されてしまった。純の抗議も届かずに。

「メイリーさん。オレ、生きてるだけで罪なんでしょうか」

 ぽつりと、馬車に乗り込む前、レオンはそう零した。メイリーは答えなかった。

「だったら、やっと裁かれるんですね」

 そう言って、レオンは笑った。

 ――あんな諦めたような笑顔は、させたくはなかった。思い出して、純は静かに拳を握る。純には何も出来なかった。連れて行かれるレオンを助けられなかった。血を流して倒れていたアカザに処置も出来なかった。

 そして――ハザマの首が転がった、あの光景が瞼の裏に焼き付いて離れない。

 あれはコピー体だ、と、分かっている。頭で分かっているが、あのリアルな光景が、まだ温もりを残した生首の感触が、まだ忘れられない。本当はもっとちゃんとハザマの本当の温度を確かめていたかったのに、ハザマは消えてしまった。人間ではないハザマは人間にあんまり存在を知られたくないのだろうと、それは純とて理解出来る。だが、理解出来るのと、心のざわつきを静められることとはまた別だった。

 神も死ぬのだ。そういえばハザマは自分のことを『神族』と言っていた。神とは種族なんだろう。だから、死ぬこともある。ハザマは決して無敵じゃない。彼の首についていたあの赤い線がそれを物語っていた。

 そのショックと、レオンのことが、純の胸に重たくのしかかっている。

「……ごめん」

 ぽつり、純は零した。その声の方をアカザとインウィディアが見る。

「私、あの時……パーティ会場で、光るものが床に落ちてるのを見た。落し物かと思って、拾おうと思って……でも、あれきっと、スペルビアの罠だったんだ。それで、まんまと捕まって……」

 純が膝の上で拳を握る。シュヴァルツでボロボロになったドレスは脱いで、今は普段のシャツと膝下までのプリーツスカートを着ていた。その裾を、握る。

「……私が、拉致なんかされなければ、レオンも、アカザも……」

 ハザマだって。その言葉は続かないで、心の中で呟く。

「ジュンちゃんのせいじゃない。悪いのはいつだって加害者だ」

 アカザがすとんと言葉を落とした。顔を上げた純の目を、彼は真っ直ぐに見ている。

「それに……よくわかんねーけど、ウィディちゃんに会えたのだって、シュヴァルツに行ったからだろ? 悪いことばっかじゃない。俺の怪我だって大した事ねぇし、これでレオンを取り戻せりゃオールオッケーだ」

 そう微笑むアカザを見て、ああ、と、純は心で呟く。アカザだって不安で、憤っている筈なのに、気を遣わせてしまった。そんな罪悪感が、純の胸に渦巻く。

 だけど、今言うべきはきっと謝罪ではない。

「ありがとう、アカザ」

 にっとアカザが歯を見せて笑う。インウィディアも、隣で安心したように微笑んでいた。

「良いってことよ。……んで、その奪還するべきレオンだけど……今何処でどうなってるんだ?」

「それが分からなくて……アカザが起きたらレオンについての話があるって言われたから、多分パルオーロの何処かにはいると思うんだけど……」

 その言葉の途中で、ガチャリとドアが開く音がした。その方を振り向くと、メイリーが、やはり無表情で扉の前に立っていた。

「メイリー、さん……」

 メイリーは表情を変えないまま、コツコツとヒールを鳴らして歩み寄る。

「起きたようデスネ。国王様がお呼びデス。歩けマスカ? 厳しいようナラ、延期しても良いというお達しデス」

 三人の前まで来ると、そう、淡々と告げた。表情は変わらない。レオンを連行した時のように、彼女は無表情で、淡々と、事務処理をこなす様な振舞いだった。

 知らず、純の顔が厳しくなる。

 道中、アイクからレオンとアカザの方で何があったのかは聞いた。レオンがAランクの魔物を退けたことも。レオンがやった事はメイリーも助けた筈なのに、どうしてそんなに機械的に動けるのか。

 ――純の睨みも無視して、彼女は返答を待っている。

「……行ける。連れて行けよ。国王だろうが、何だろうが、俺達は屈しねぇからな。レオンを悪人みたいに扱う言い訳があんなら聞いてやるよ」

 アカザもまた、敵意を込めた目でメイリーを睨んだ。彼女はやはり機械的に、何も感じていないように、「そうデスカ」と答えた。

「デハ、行きまショウ」

 彼女は踵を返してコツコツと歩いていく。着いてこいという事だろう。

 純が肩を貸して、アカザも立ち上がる。三人は前を歩くメイリーに続いて、部屋を出た。



「来たか」

 案内されたのは王の間だった。長く青いカーペットの先、絢爛豪華ではないがしっかりとした作りの質のいい玉座に座り、国王アーサーがこちらを見ている。玉座の後ろの壁は、国章が描かれた巨大な青の布に覆われて見えない。青を基調としたその場で、アーサーの赤い髪は異質にはならずよく映えた。

 メイリーに促され、三人は玉座の前に、数段の階段を挟んで並ぶ。メイリー本人はその階段を登り、アーサーの隣に立って、足を揃え背筋を伸ばした。

「今回はご苦労だった。ヤマダジュン、君もよく無事で――」

「そんな御託はいいんだよ。レオンは何処だ」

 純に支えられて何とか立っているアカザが、それでも気丈に牙を剥いた。一国の王にするにはあまりに不遜な態度だが、アーサーは特に諌めずに肩を竦める。

「……そうか、では早速本題に入ろう」

 その代わりに、彼は玉座から立ち上がって一歩進む。階段を間にして、彼は三人を見下ろした。


「レオン・アルフロッジはこの『災厄』を呼んだ悪魔の子として、リシュール国王権をもってして投獄する」


 アーサーの凛とした声が、そう、端的に告げる。アカザが、震える声で「なんで」と零した。

「単純な事。闇属性であるからだ。闇属性が災厄を招くモノだとはよく言われることだろう。そもそも魔を呼び呪いを振り撒き災厄を起こす闇属性がパルオーロにやって来るなど、考えるだけでおぞましい」

 その言葉に、インウィディアがびくりと震えて純にしがみついた。純は彼女の手を握り、アーサーを睨み上げる。

「……っふざけんなよ……! リックは! リックは何処だよ! アイツがそんなのに同意するわけねぇ!」

「リックは頑なに反対したのでな、今は謹慎処分を下している。残念だが、いずれ分かってくれるだろう」

「……っ!!」

 アカザが歯を食いしばる。じわり、と腹に巻かれた包帯に血が滲んだ。

「落ち着いた方がいい、アカザ・ジルアーク。傷が開くぞ」

「黙れ! テメェに心配されるいわれはねぇ!」

「……それに、これは本題ではない。決定事項なのだから」

 その言葉に、アカザが目を見開く。純もまた困惑の顔でアーサーを見上げた。そんな視線を受けながら、アーサーは表情を変えずに彼等を見下ろしている。厳格で冷たい瞳だった。

「本題は、君達の事だ。君達は『悪魔の子』をこのパルオーロに連れて来て、災厄を呼び込んだ。故に、『悪魔の子』と同じく投獄されて然るべき」

「……!」

 アカザが耳に手を当てる。だが、そこに有るべき水晶のピアスは無い。医務室で外されていたのだと、そこで漸く気付いたようで、悔しげに歯噛みした。純もまた刀を取り出そうとしたが――その前に、蝶が周囲を飛んでいることに気が付く。メイリーのものらしい光る蝶は、三人を監視するように見下ろしている。純が刀で何とかする前に、この蝶の動く方が早い、と、純は本能で理解した。

「……妙な真似はしない方がいい。君達の返答次第では、投獄は免れるのだから」

「何だと?」

 アカザが睨み上げる。それをものともせずに、アーサーは答えを落とした。

「君達は『悪魔の子』をパルオーロに呼び込んだが、悪気があったわけでは無かろう。故に――


――君達が、アレを『悪魔の子』と認め、今後の縁を切るのならば、君達の投獄は取り下げよう」


「……は?」

 その声を零したのは、純だったかアカザだったか、或いは両方だったかもしれない。彼等が見上げる先のアーサーは、やはり、表情を変えない。

「……何だ、それ、つまり……」

 そう、震える声で零したのはアカザだった。

「自分の保身の為に、レオンを売れってのか……!!」

 アカザの怒りが、隣に居て伝わってくる。痛いほど伝わってくる。そして、同じくらい、純も怒っていた。

 同時に、そうか、と納得した。

 トアロ村で、シュヴァルツで。レオンから感じた諦念。レオンの諦めた笑顔。

 ――レオンは、ずっと、こんな理不尽に晒されてきたんだ。あんな風に、諦めてしまうほどに。

『メイリーさん。オレ、生きてるだけで罪なんでしょうか』

 そんなこと言わせたくなかった。

『だったら、やっと裁かれるんですね』

 そんな顔させたくなかった。

 純がトアロ村で誓ったのは、こんな理不尽から、レオンを守ることだったのに。

「ふざけんなよ!! レオンを捨てるなんかするわけねーだろ!! 投獄すんならしてみろよ!! 絶対にレオンも助け出して、皆でこんな国出て行ってやる!!」

 アカザが叫んだ。そして、純も同じ気持ちだった。

 その手に刀を握る。周囲を飛ぶ蝶なんて、もう気にしない。怪我したって知るものか。

「……ウィディ、大丈夫、ちゃんと守るからね」

 ぽつりと、純は零した。繋いだインウィディアの手を握り、震える彼女を、闇属性の彼女を、安心させるように。

 そして、アーサーを見上げる。

「レオンと、約束したんです。守るって」

 アーサーは黙ってこちらを見ていた。

「でも、約束だからってだけじゃない。レオンは友達だから。レオンのこと、ちゃんと大事だから」

 刀を握り、その切っ先をアーサーに向けた。


「……ッ友達を売るくらいなら、理不尽に屈するくらいなら! 罪人にだってなってやる!!」


 その宣言と同時に、周囲を飛ぶ蝶が一際大きく輝いた。攻撃を予想して、純は刀を構える。せめて丸腰のアカザとインウィディアを守れるように、祈りを込めて握り締めた。

 ――そして。


 ぽひゅう。


「……、……え?」

 蝶は、三人を傷付けるどころか、そんな間抜けな音を立てて消えた。

 ぱちぱち、そんな拍手が鳴る。音の主は、今まさに敵意の先にあった、アーサーであった。

「合格だ」

 そう言って、アーサーは笑う。先程までのような厳格そうな国王らしい笑みではない。歯を見せて、にっかりと、快活な青年のような、悪戯に成功した子供のような笑顔だった。

「……はい?」

 状況を飲み込めない三人を、アーサーはけたけたと笑い、メイリーは溜息をつく。

「『そちら』に戻るナラ、ワタシももういいデスネ? 正直貴方に国王様なんて言いたくないんデスヨ」

「えー、相変わらず俺には冷たくねーかメイリーちゃんよー」

「喧シイ」

「待ってくれ、いや待ってください、どういうことっすか」

 すっかり毒気を抜かれてしまったアカザが、それでもと気を引き締め直して問い質す。その様子もまたおかしいとでもいうように、アーサーはまた笑った。

 その姿に、純は思わず零す。

「……貴方、本当に国王様なんですか……?」

「お、鋭いねヤマダちゃん」

 にっかりとアーサーは笑う。鋭いと言われても、純は混乱の極みで何も把握出来ていないのだが。ついでに『山田』は苗字であって名前ではないことを分かってくれているのだろうか。それも純には分からない。ひたすら混乱である。

 そんな純などどこ吹く風で、ぐるりとアーサーは玉座の後ろ、その向こうを見た。

「そーいうわけだ! 出て来いよ『アーサー』! あとレオン少年もな!」

 その言葉に驚くよりも先に、別の驚きが三人を襲う。

 玉座の後ろには国章が描かれた布があり、その向こうは見えないがきっと壁がある筈だった。だが、ガチャリ、と音がする。覆いであった布が、べらりと捲られる。その中には扉があった。開いた扉の向こうに、確かに部屋が見える。

 そしてその入口に立っていたのは、投獄されている筈のレオンと、謹慎されているはずのリックと、もう一人。レオンはあわあわと落ち着かず、リックは苦笑して三人に謝るように片手を掲げた。そしてその隣に――


「……ジュメレ、三人が困っている。先に説明をしてやるべきではないだろうか」


 そう、困ったような顔で言う、国王アーサーと全く同じ顔と声をした男が佇んでいた。

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